実質的な代表辞任による代表選挙。執行部の責任は明確にする必要がある
小池新都知事が当選し小池新党が話題になった頃は、話題になりつつあった民進党代表選だが、ここに来て一気に話題にならなくなってきた。
裏では色々と動いているようだが、マスコミ報道に出てこない背景には、どうやら無投票による「蓮舫代表」という可能性が強くなっていることで、もともと少なかった民進党代表選そのものへの期待感がほとんどなくなってきているのではないだろうか。
先日フジテレビのホウドウキョクに出演した際にも話したが、仮に人気のある蓮舫代表代行が代表になったとしても、このままの構造のままでは、一時的に支持率は多少上がっても、中期的に見れば、「社会党の末期」と同じようなジリ貧にならないかと危惧する。
その根拠は、既に民進党は国民の期待にかすらないところにポジショニングしている印象があるからだ。
民進党結党からまだ半年も経っていない中ではあるが、この状況は致命的な状況とも言える。
民進党立て直しを考えている面々は、「次は蓮舫さんでもその次が・・・」などと悠長なことを考えている余裕はない。
社会党のような末路を歩む前に、早急に方針転換してもらいたいと思う。
参考までに、都知事選の事例から考えてみたい。
直前の参院選では民進党は32ある1人区を11勝21敗で乗り切り、見方によっては野党共闘の成果が出た形になった。特に東京都では自民党の153万票に対して、民進党が163万票と上回った。
これによって民進党の皮算用が始まる。
自民票に公明票が乗っても231万票、共産票と共闘すれば229万票、さらに無党派の票が乗る構造さえ作れれば「自民に勝てる」という算段だったに違いない。
実際に民進党の都知事選候補者選定は、こうした流れの中で蓮舫氏が立たないことになると、共産と相乗りできる候補を大前提にと進み、長島昭久民進党東京都連幹事長が手を上げてもスルー、選挙に勝てるなら石田純一氏でもいいという声まで出てきて、都連としては反安倍で固まれ市民に広げていくのに知名度もある古賀茂明氏に出馬要請し詰めていた。最終的には枝野幸男幹事長が民主党政権時代に批判していた古賀氏には乗れないと、都連の積み上げを全て執行部マターでひっくり返し、鳥越俊太郎氏に決定したと言われる。
代表が実質的にこの選挙の責任を取る形で辞任する格好となった代表選挙の中で、執行部だった面々は、この選定も含め、この間の民進党の選挙を含めた運営にどう関わり、どういった責任があるのかは明確にしておく必要がある。
ちなみに無投票とまで噂されつつある蓮舫氏はこの際の民進党執行部のNo.2代表代行である。
なぜ小池百合子に風が吹いて、民進党に逆風だったのか
図表:参院選および都知事選における自民・公明・民進・共産4党の得票数
皮算用による選挙は、実際には291万票を獲得し、小池百合子新都知事が圧勝という形になった。
この勝因については、『「小池新党」ができれば雪崩を打ち日本の政局を大きく変える可能性がある』( http://blog.livedoor.jp/ryohey7654/archives/52064181.html )でも少し触れたが、今回は、むしろ民進党の敗因について書いていきたいと思う。
自民党の押す増田寛也氏は、「あれだけの組織がついて惨敗」などとは言われるものの公明党がついたとはいえ参院選で自民党が獲得した153万票は大きく超え179万票を獲得した。
投票率は参院選57.50%に対して都知事選59.73%とあまり変わらなかったことから考えると、公明党が割れずに増田氏を指示したとすれば、自民党分裂選挙だったにも関わらず、自民党支持者から逃げたのは1/3程度の52万票である。
一方で、鳥越俊太郎氏は共産党と合わせた229万票どころか、民進党の163万票からも28万票少ない135万票に終わった。
今回の選挙構造から考えれば共産党票が乗っていることは間違いなく、民進党のダメージはもっと大きかったと考えるべきだろう。
もちろん鳥越氏本人の候補者としての質もあるのだろうが、出口調査によると無党派層の49%が小池氏に投票し、増田氏が19%、鳥越氏は18%と大きく差がついた。
仮に民進党を本当に政権選択の一翼にと育てていくのだということを考えれば、この無党派層に支持されない構造は、根本的な問題であると言える。
民進党は既に既得権を守る守旧派勢力になっている
こうした状況の背景にある国民の意識についてのイメージ図を作ってみた。
図表: 都知事選各候補のポジションイメージ
一昔前の政治においては、イデオロギー構造の中で左右の軸に基づき、自らが支持するイデオロギーにあった政党や政治家を選ぶという構造があったように思う。
国政においてもそうだが、野党はこのイデオロギーによる対立構造を煽り、争点を作り出すことで、政府への批判票の受け皿となることで、自らの支持を増やそうという戦術で動いているように思う。
実際に今回の選挙では、東京都知事という地方自治体のトップを選ぶ選挙であったにも関わらず、その争点はメディア規制も含めてその裏にある国の安全保障とするものであり、選挙戦術の側面もあったかもしれないが、これに反原発の流れも取り込んで、政府への批判とイデオロギーによる主張に終始していたように思う。
一方で、多くの国民の感覚からすれば、むしろこうしたイデオロギーによる対立構造は既に「時代遅れ」の感があり、こうした左右の対立については、もはや「どちらも支持しない」という状況になっているのではないだろうか。
むしろこの左右の対立構造に対して、既存の既得権を守るという意味での保守的な政治構造と、逆にこうした既存の枠組みを壊して新しい政治にしようという改革方向という新たな縦軸が争点になっているように感じるのだ。
今回の都知事選では小池新都知事が、自民党都連幹事長である内田茂都議をスケープゴートにしながら、既得権の象徴である自民党東京都連というレッテルを貼り、自らはそれに対する改革者であり都民の味方であるというブランド化を行い見事圧勝した。
理解しなければならないのは国民に共感されたこの構造であり、この構造の中では、鳥越氏はもちろん、民進党についてももはや改革政党であるという理解はなく、むしろ既得権を守る守旧派といった印象になっているのではないか。
野党共闘をなくしても蓮舫支持理由が「選挙のため」では先がない
民進党内部は、既に多くが蓮舫氏支持に流れ、仮に選挙が行われたとしても、その結果をひっくり返すのはかなり厳しい状況にまでなってきているように思う。
しかし、実際に蓮舫氏支持の多くに民進党が政権政党となるためのビジョンを持っているのかというと、少なくとも国民には見えてこない。
以下は、参院選における自民・公明・民進・共産4党の得票割合である。
全国レベルで見ると、この4党の中では、自民党が44%を獲得した。
しかし、蓮舫氏が1,123,145票を獲得し圧勝した東京選挙区においてはこの状況が大きく変わる。
自民党はわずか33%にまで減り、民進党が僅差ではあるが逆に36%と自民党を上回っているのだ。
公明党、共産党の両党の得票割合が変わらないこともあり、これだけ見ると「自民党の票が民進党に移って逆転」というように見えなくもない。
図表:参院選における自民・公明・民進・共産4党の得票割合
筆者は1年前から衆議院の解散総選挙が12月にあると予想しているのだが、おそらく民進党議員の中には、次の選挙を控え、「代表さえ変われば・・・」と、東京都の状況が全国に広がることを期待している人も多いのではないかと思う。
代表が変われば、瞬間的には支持率は上がると思うが、これでは本質的な解決とは言えない。
報道では、「野党共闘の見直し」を発言し始めていると報じられているが、野党共闘の枠組み自体が選挙で負けないための手段であったことは言うまでもないが、こうした代表の顔のすげ替えもまた選挙のための手段でしかない。
安倍政権は右に寄り過ぎても国民からは改革者だと思われている
講演などでこうした話をすると、ではなぜ国政選挙においては自民党が勝ち続けるのかという質問を受ける。
先日も田原総一郎氏、池田信夫氏、細野豪志氏らとともに、講師として招かれた際に話をしたが、最も重要なキーワードは「そこしか選択肢がない」からだ。
野党再編、民進党への統合は、野党第1党の数を増やすという意味では画期的な構造と言える。
野党共闘も含めて、この構造さえ作れなければ、民進党はこの夏の参院選で大惨敗を遂げた上、もはや再起不能になっていたかもしれない。
その意味ではこの大事業を成し遂げた岡田克也代表の功績は大きく、こうした他党との連携、枠組みづくりは岡田氏以外の代表ではできなかったのではないかとも思う。
だがしかし、だ。
民進党への合併により、国民の選択肢は大きく減ってしまうことになった。
多くの無党派の思考から考えると、共産党、公明党を除き、地域政党という印象のあるおおさか維新まで除くと、実際には多くの国民にとっては、選択肢は自民党、民進党の2択になる。
この結果、政権を取った時の民主党のイメージに尾ヒレがついて誇張された結果、もはや「1択」というのが現状なのではないだろうか。
アメリカなどからは「Japan move to right」などと揶揄される安倍政権、野党からすれば「戦後最も右の政権」であり、「戦争へまっしぐらの危険な政権」といったイメージなのだろうが、おそらくフラットな無党派層からすると、むしろ「アベノミクス」など経済政策などを含め、改革的な政権といったイメージすらあるのではないだろうか。
ここに安倍政権が勝ち続ける構造があるように思うのだ。
図表: これからの政党に求められるポジションイメージ
これに対し民進党は、共産党との野党共闘に限らず、この間に行って様々な手法は、左に寄っているという多くの指摘ももちろんだが、多くの国民からすると、同時により既得権を守る守旧派的な勢力として下へとシフトして行ってしまっているのではないだろうか。
ゾーンマップで考えれば、政権与党である自民党は、安倍政権になってまさに「Move to right」しているわけだが、国民の印象で言えば、同時に現実的な経済政策、場合によって安全保障や憲法改正ですら「既存に捉われない改革派」という上へのシフトに成功しているのだ。
もはや利益代表を送り出す政治は終わり、既得権を壊す政治勢力が求められている
かつての政治においては、例えば、雇用者と労働者といった枠組みの中でそれぞれがその利益団体の中から代表者を送り込み、代議制民主主義によってその代表者たちがその妥協点を探った。
この構造の中では、ベクトルはヨコ軸しかなく、左右の軸の中で、どこにその落とし所を持っていくかを考えれば良かった。
国民はその社会状況に合わせて、政権に反発する際には、反対勢力に投票するという力学が生まれた。
しかし、現状の政治状況を見ると、無党派層の増加に代表されるように、組合に入らないサラリーマンやOLが増加、自らが経営者になった層においても既成の団体に所属しない層が増えてきた。
こうした現状においては、もはや各々の既得権を守ってもらう利益代表を政界に送り込むという構造は、左右共に成り立たなくなり、むしろこうした旧態然として構造に所属しない層の人たちは、既存の既得権を壊すことが重要であると考えているのではないだろうか。
その意味では、国民の期待はセンターライトから現実的なセンターレフトまでを含めた改革勢力にあるのではないかと思われる。
与党である自民党は、改革イメージのブランディング化には成功しているものの、自らのイデオロギーに固執し、ご丁寧に真ん中を空けてくれている。
民進党が何を目指す政党なのか分からないが、本気で「政権選択の一翼となる政党」を再びめざすというのであれば、改革政党を目指すとともに、右上にとシフトしていく必要を強く感じるのだ。
今回の民進党代表選は、単に1政党の代表を選ぶ選挙ではない。
ここで失敗すれば、次のチャンスはないかもしれないからだ。
広報戦略や政党のブランディング化の側面から考えても、野党に注目の集まるチャンスは限られている。こうしたチャンスすら自ら無くそうとするマイナスブランディングをするのであれば、もはや復活の可能性は皆無といえるのではないだろうか。
高橋亮平(たかはし・りょうへい)
中央大学特任准教授、NPO法人Rights代表理事、一般社団法人生徒会活動支援協会理事長、千葉市こども若者参画・生徒会活性化アドバイザーなども務める。1976年生まれ。明治大学理工学部卒。26歳で市川市議、34歳で全国最年少自治体部長職として松戸市政策担当官・審議監を務めたほか、全国若手市議会議員の会会長、東京財団研究員等を経て現職。世代間格差問題の是正と持続可能な社会システムへの転換を求め「ワカモノ・マニフェスト」を発表、田原総一朗氏を会長に政策監視NPOであるNPO法人「万年野党」を創設、事務局長を担い「国会議員三ツ星評価」などを発行。AERA「日本を立て直す100人」、米国務省から次世代のリーダーとしてIVプログラムなどに選ばれる。テレビ朝日「朝まで生テレビ!」、BSフジ「プライムニュース」等、メディアにも出演。著書に『世代間格差ってなんだ』、『20歳からの社会科』、『18歳が政治を変える!』他。株式会社政策工房客員研究員、明治大学世代間政策研究所客員研究員も務める。
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