すさまじい黒田総裁に対する批判
自民党総裁の任期が3期9年まで延長される可能性が高まっています。安倍1強政権だし、自民党幹事長に就任した二階氏は首相の意向を熟知したうえで幹事長を引き受けています。オバマ米大統領は2期8年(3選禁止)だし、メルケル独首相も2005年からもう10年以上もトップの座を保っています。
世界情勢が激動期に入り、首脳間の個人的関係が重みをなす時代に入りましたから、適格者であるならば、日本でも首相の任期を延長しても賛成者のほうが多いのではないでしょうか。第二次安倍政権までは、首相が毎年、交代し、日本は政治的無能力者でした。もっとも安倍首相が適格者であるかどうかは別問題です。このブログでは今、それに触れません。
黒田氏の再任は正しい選択か
総裁の任期延長がなければ、安倍氏は2018年9月で首相を退任します。同じ年の4月には、黒田日銀総裁は任期切れを迎えます。すでに2年を切っています。日銀総裁の任期は5年です。日銀法25条には、正副総裁らの任期延長の規定が設けられています。自民1強政権ですから、黒田総裁の任期を延長しようとすれば、できます。それが正しい選択かどうか。結論を申せば、黒田派とは異質の日銀再建派の登場が必要となります。
黒田総裁は安倍首相に請われて総裁となり、当初、一心同体で異次元緩和の金融政策、デフレ脱却の推進、「2年間(15年4月まで)で2%の消費者物価引き上げ」という冒険に突入しました。すでに予告の目標時期は過ぎ、なんども延長修正を繰り替えしています。2%程度の実質成長率目標も挫折しています。
多少動きがあったのは、異次元緩和が生み出した株高、円安でしょう。資産家は株高で潤い、輸出比率の高い大企業は円安効果で利益が膨らみ、税収は増えました。その後、株は1万6千円台に下落、為替は円高に転じ100円前後となり、アベノミクス効果を強調するひとは、安倍政権の周辺か取り巻きの学者、メディアにしかいなくなりました。
「金融緩和は経済の構造転換や人口減少問題には効果がない」、「経済は長期的な停滞期に入っている。金融・財政政策は一過性の危機でないと、効き目は弱い」、「国内経済は海外要因の影響を大きく受けるのに、国内中心の金融政策の効果を過信した」など、黒田総裁には過酷なまでの批判が投げつけられています。
GDPは日銀試算が政府試算より大きい
さらに最近、日銀独自の国内総生産統計(GDP)は、内閣府統計より年間30兆円も多いという重大な指摘が浮かび上がってきました。それによると、14年度の実質成長率は2.4%増となります。政府側はあわてふためいています。
日銀試算が正しいければ、経済危機対策の財政出動28兆円は不要となるばかりか、首相がサミットで得意そうに指摘した「リーマンショック級の経済停滞の再来」は事実誤認になります。アベノミクスは実体経済に効き目があったとなります。その場合でも、投入した財政出動、金融政策のコストの回収をどうするのか。日銀の勝ちならば、すべてをご破算にして、アベノミクスの再設計が必要になります。
アベノミクスの原資は回収不可能
かりに日銀試算が正しいとなっても、異次元緩和の名のもとに、日銀が買い込んだ長期国債などは440兆円にも上るという大問題があります。少しでも減らそう(市中に放出)しようものなら、株価に深刻な打撃を与えるでしょう。これだけ巨額の国債を中央銀行が抱いてしまったら、市場の反応が怖くて、何年も売るに売れないのです。さらに日銀がこのペースで長期国債を買い込んでいったら、流通市場の長期国債が枯渇し、市場は死に体となります。
黒田総裁はどうするつもりなのか。総裁の任期中には身動きはとれないでしょう。安倍首相は総裁を再任し、後始末を命じるつもりでしょうか。かりに再任しても、後始末にも何年かかるか分かりませんし、総裁は「通貨供給量が物価水準を結局は決める」との自説を言い張り、事態をさらに悪化させるかもしれません。黒田氏の後任は「日銀再建屋」とすべきなのです。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年8月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。