8Kテレビで中韓に先行できるのか

山田 肇

8月26日の日本経済新聞一面トップは、「パナ・ソニー・NHK、8Kテレビ共同開発 製品20年メド、中韓に先行」だった。日本の電機メーカーは中韓勢の伸長でテレビのシェアを落としてきたので、最先端の技術水準を確保して日本連合で生き残りを目指すというのが記事の内容である。この戦略で日本の電機メーカーは生き残れるか。

先行事例がある。2000年代前半までは、携帯電話機器市場の主役は日米欧メーカーだった。しかし、今では新興国企業に市場を奪われ、多くの先進国企業は撤退を余儀なくされている。

その理由の一つは国際標準化である。標準の実施に必須な特許について特許権者は非差別での使用許諾を義務付けられているが、特許権者は必須特許の発明過程で確立した周辺技術を他企業に先駆けて自社製品に適用できるため、市場競争に有利と考えられてきた。8Kテレビでも、「放送品質の確保や関連する規格の策定を進め」先行者利益を取ろうと記事にある。

しかし実際には、標準と特許として公開された技術が、新興国企業の急速な立ち上げに役立つスピルオーバーが発生していることを、東京大学の研究者が見つけている。標準には相互運用性を確保するために技術の詳細が記述されている。特許出願書類にも技術の詳細を書かなければならない。新興国企業はそれらから学ぶことができる。これが技術のスピルオーバーである。

新興国企業が作る安価な携帯電話は途上国を中心に普及し、『ITU統計』では2015年末加入者数は途上国で56億に達している。8Kテレビでも、新興国企業の追い上げは確実に起き途上国の市場を奪っていくだろう。

それでは、先進国企業はどうすれば生き残れるのだろうか。再び携帯電話機器市場を観察すると、先進国でiPhoneが市場を席巻していることに気付く。iPhoneも製造自体は新興国にゆだねているので、機器の技術的な性能が魅力的なわけではない。好みに沿ったアプリやコンテンツがストアから提供されたり、位置情報なども利用して的確に情報が提供されたりすることが、利用者に評価された結果である。8Kテレビでも、機器本体だけでなく、コンテンツの提供方法などを含めて、ビジネスエコシステムを創造する必要がある。

まずは、技術のスピルオーバーの深刻な影響について、日本連合は勉強してほしい。情報通信政策フォーラム(ICPF)では、8月31日に東京大学の研究者を招いてセミナーを開催する。ぜひ、参加してほしい。