ウィーンのホーフブルク宮殿で先月31日から今月3日まで、第16回国際皮膚腫瘍学会(WCCS)/第12回欧州皮膚腫瘍学会(EADO)が開催中だが、そこで専門医からイスラム教徒の女性用水着「ブルキニ」は皮膚がん防止で最良の方法だという声が聞かれるという(「ブルキニ」とは、イスラム教徒の女性の水着で、ブルカとビキニの造語)。
若い女性は海水浴では紫外線防止クリームをつけるが、皮膚専門医は、「理想的な手段ではない」という。ドイツの皮膚専門医の研究によると、「太陽線など紫外線(UV)保護を使用したとしてもメラノーマ(悪性黒色腫)の潜在的な危険性は変わらない。紫外線を防ぐ衣服の着用こそベストだ」という。そこで紫外線対策でベストのドレスとして「ブルキニ」が出てきたわけだ。
EADOのクラウス・ガルべ(Claus Garbe)会長は、「アンチ皮膚がんの衣服を着用すれば、2050年以降は皮膚がんの増加トレンドは逆行するだろう」と考えている。ちなみに、「ブルキニ」はもともとオーストラリア女性が考え出したものだ。「ブルキニ」の50%は今日、イスラム教徒以外の女性が着用しているという。オーストラリアは久しく皮膚病が多い国だ。
ガルべ会長によると、メラノーマも悪性白色腫も大部分が紫外線の影響が大きい。フロンガスによるオゾン層破壊が進み、太陽からの紫外線の量が増加し、その結果、皮膚がんが増加している。
メラノーマの場合、1950年には10万人のうち1件の発生率だったが、1970年代には3件、1990年代8件、2010年25件、2030年には43件に増えると予想されている。悪性白色腫皮膚がんの場合、1950年代、10万人につき発生率は5件だったが、2030年代には400件と急増が予想されている、といった具合だ。
なお、フランスでは久しく「ブルキニ」論争が展開されてきたが、同国国務院が先月26日、同国南部のニース、カンヌなど有名観光地を含む約30の自治体が「公共秩序への挑発」としてブルキニ着用禁止条例を施行したことに対し、「個人の自由を著しく侵害する」として禁止条例の停止を命じたばかりだ。同国ではイスラム教徒団体や人権グループが自治体の禁止条例の撤回を要求してきた。
フランス革命記念日の日(7月14日)、フランス南部ニースの市中心部のプロムナード・デ・ザングレの遊歩道付近でトラック突入テロ事件が発生した。チュニジア出身の31歳の犯人がトラックで群衆に向かって暴走し、85人が犠牲となった。それ以後、30以上の自治体は海岸でブルキニ着用を禁止した経緯がある。
自治体は国務院の「ブルキニ禁止の撤回」要求にもかかわらず、その禁止令を維持する意向という。元大統領二コラ・サルコジ氏は先月30日、「憲法改正でブルキニ禁止を維持するべきだ」と要求、それに対し、ベルナール・カズヌーヴ内相は「アンチ・ブルキニ法は憲法違反だ」と拒否している。
フランスでは「ブルキニ」論争はまだ続く気配だが、欧州皮膚腫瘍学会から「ブルキニ着用が皮膚がん対策で最良の方法」という想定外のエールが届いたことから、「ブルキニ」着用の見直し論が勢いを得るかもしれない。
世界の男たちよ、紫外線から美しい女性、愛する妻を守るため「ブルキニ」の着用を勧めてみたらどうだろうか。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年9月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。