企業が人を処遇するについては、貢献に応じた報酬を適合させなくてはならない。ただし、勤続期間全体を通じた累積として、貢献と報酬を一致させるということである。
貢献に応じた報酬というとき、難問は、貢献の測定である。しかし、とりあえずは、何らかの方法で貢献が合理的に測定されるとしたうえで、論点を、予定された勤続期間の全体のなかにおける貢献と報酬の均衡に絞ろう。
予定された勤続期間が有期の場合は、例えば、1か月の臨時雇いについては、貢献と報酬の一致は明瞭だ。しかし、より正確にいえば、貢献と報酬が一致しているのではなくて、貢献の期待と報酬が一致しているのだ。報酬は事前に決めるしかなく、貢献は事後にしか判明しないからである。
僅か1か月の定期採用でも、初日と最終日とでは、生産性の向上があるはずだから、日当基準では、貢献と報酬は一致しない。では、1か月間で貢献と報酬が一致するかというと、個体格差があるから、個々人基準では不一致である。要は、貢献と報酬との一致は、1か月間の期間全体を通じて、また被採用者の全体を通じて、期待として、なりたつということである。
つまり、問題は三つあるわけだ。第一は、勤続期間中のどの時点をとっても常に貢献と報酬が一致していることなどあり得なくて、あくまでも、両者の均衡は、勤続期間の全体を通じて実現されることが意図されるものであること。
第二は、貢献と報酬の一致というとき、最初に意図されていることは、貢献への期待と処遇との一致であり、現実には、実際の貢献は期待通りでないのだから、貢献と処遇の一致が問題であるよりも、期待貢献と実際貢献との一致のほうが本質的な問題であるということ。
第三は、貢献と処遇の一致は、最終的には組織全体としての均衡なので、そのなかで各個人の次元では貢献と報酬の不一致があるわけだから、この不一致を処遇設計のなかでどう解くかが人事制度の鍵であること。
要は、貢献と処遇は一致しないという前提で、にもかかわらず、貢献と処遇は一致させなければならないという原理的要請のもとで、人事処遇制度は設計されているのである。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
HC公式ウェブサイト:fromHC
twitter:nmorimoto_HC
facebook:森本紀行