先週8日のECB理事会では金融政策の現状維持を決定した。ドラギ総裁は会合後の会見で、資産買入れ策の期限延長について議論しなかったと説明した。市場 では来年3月までの資産買入の時期を延長するのではとの期待が一部にあった。ドラギ総裁は資産買入れの円滑な実施を確実にするための選択肢を検討するよう 指示したとも発言しており、これの意味するところは、ECBの国債買入についても限界が見えており、何かしら買入対象の変更等を行わなければ期間延長も難 しくなっているのではとの見方もできる。
そこにボストン連銀のローゼングレン総裁が利上げを長く待ち過ぎれば米経済が過熱する恐れがあるとの指摘したことで、9月のFOMCでの利上げ観測が再 燃した。また、ブレイナード理事が12日に講演することが8日にFRBから発表された。利上げ慎重派とみられるブレイナード理事が利上げを示唆することで 利上げに向けた地均しをしてくるのではないかとの観測も強まった。
これらを受けて9日の欧米の国債は大きく下落した。米10年債利回りは1.67%と前日の1.60%から上昇し、英国の10年債利回りも0.86%と前 日の0.76%から上昇した。そしてドイツの10年債利回りはプラス0.01%とプラスに浮上した。6月23日の英国でのEU離脱を問う国民投票の結果が 出る以前の水準を回復した格好となった。
今回の欧米の長期金利上昇の背景には、ECBの追加緩和に対する限界説やFRBの早期利上げ観測の再燃なども大きな要因であった。それだけではなく日本 の国債利回りの上昇も影響していたと思われる。日本の超長期債を中心とした利回り上昇の背景には、日銀の総括的な検証への思惑もあったとみられる。
このように日米欧の中央銀行のスタンスがあらためて国債市場で材料視されるようになり、異常に低下し過ぎていた日欧米の長期金利が水準訂正を行っているように思われる。
ECBについてはすでにこれ以上のマイナス金利の深掘りはしないことをすでに表明しており、追加緩和手段として市場が期待していたのが、資産買入の時期 を延長するという手段であった。しかしそれは日銀の国債買入以上に困難さを増していたとみられ、何かしら買入対象の変更等を行わなければならないことを示 す結果となった。日銀もECBも認めたくはないであろうが、これ以上の金融緩和策に限界があることを示すものとなった。
そこに正常化を進めたFRBがやや遅れていた利上げをこのタイミングで行うのではないかとの観測が強まった。というよりも6月、7月にできなかった利上 げは9月も無理、去年もそうではなかったかといった市場の見方に対して、あらためてFRBが9月の利上げに向けた地均しをしてきたとの認識が強まった。今 年は特に11月の大統領選挙を控えている以上、利上げをする意向であれば12月よりも9月の方が可能性は本来高いはずである。昨年9月のFRBの利上げ見 送りは中国経済の減速をきっかけにした世界的な株価の急落などを踏まえ慎重になっていた可能性はあるが、いまのところ新興国の株式市場はそれほどの動揺も 見せてはいない。
日銀が21日の金融政策決定会合後に公表されるであろう総括的な検証については、金融緩和の時間軸をどのようにして延長させるのかが大きなテーマになる と考えられる。そのためには市場との対話が必要となり、金融機関の収益面も意識したものとなることが予想される。結果としてそれはイールドカーブのス ティープ化を促すことになるのと見方となっているものと思われる。
9日にロイターは「日銀、中短期金利重視の緩和強化検討へ 具体策も議論」と報じている。日銀は金融機関の収益減や生保・年金の運用難など副作用の要因 になっているイールドカーブのフラット化の修正策を検討するとしており、これを受けて9日の夕方から12日にかけて日本国債のイールドカーブは大きくス ティープニング圧力を強めた格好となっている。ただし、日本の10年債利回りはまだプラスには転じていない。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年9月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。