プルトニウムが中国、北朝鮮の攻撃を抑止する

井本 省吾
日下公人氏のウィキペディアを読んでいたら、「プルトニウム」という箇所にこうあった。
青森県に行ってみると、原子爆弾の材料になるプルトニウムが1千何百キロと積んである。……あれは猛毒だから、中国がもし日本に「原子爆弾を打ち込むぞ。尖閣諸島はおれのものだ」と言ったら、「日本も同じだけの仕返しをします」と答えればよい。(原子爆弾ではないが)猛毒で、3千年ぐらい消えないプルトニウムを、(大量に)水源地にばら撒けば、川の流れに流れて、もう回収できない。下流は、全部人が住めなくなる。「日本にはミサイルがない」「そんなもの要りません、旅客機から、ぱっぱと落としてもよい」。……これは武器に使えるとなぜ思わないのか。

いかにも日下氏らしい発想で、日本政府や大半の政治家、大手メディアの記者は笑って済ますだけだろう。「じゃ、どうやって中国や北朝鮮の危険な攻撃を防ぐのか」「『今そこにある危機』にどう対応するのか」というと、要領のえない答えをするか、黙り込んでしまう。

要領の得ない答えにミサイル防衛システムがある。だが、北朝鮮がミサイルを大量に作り出したら、ミサイル防衛では間に合わない。最近の北朝鮮の核・ミサイル実験による攻撃能力の向上を見るとその時期が今、刻々と迫っている。核大国となった中国に対してはいわずもがな、の危険がある。

ミサイル防衛ではなく、攻撃してきたら、こちらにも攻撃するという対抗力をつけなければ抑止は難しい、とは素人の私でも思う。

でも、日本に原子爆弾はない。どうするか。と不安に思っているところに出たのが、プルトニウム攻撃のアイデアだった。

その気になれば、時間をかけずに確実に攻撃力が実現する。日下氏の言うように、旅客機でもできるが、空対地ミサイルのない航空自衛隊にも、戦闘爆撃機による敵基地攻撃能力が備わっている。それでプルトニウムを効果的にばら撒く事は十分可能だ。

問題は、北朝鮮の核基地に関する情報で、アメリカの協力が欠かせないが、大切なのは、攻撃は日本が自分でやることだ。アメリカに任せるのではなく「自分でやる」姿勢を鮮明にすれば、米国も協力する可能性は小さくない。トランプ次期大統領候補のように「安全保障は自分でやってくれ」という内向き志向が今、米国に強まっているのだから。

NPT(核拡散防止条約)は少数の核保有国に特権を許す代りに非核保有国に脅威のない安全を保障するという「約束」の上に成り立って来たはずだ。核保有国の中国が、尖閣問題でイザとなったら日本に核ミサイルを撃ち込むぞ、などとは言ってならないはずの条約なのである。

米国も北朝鮮の核の芽を早い段階で摘み取り、日本や韓国に迷惑を掛けない、という暗黙の約束があったはずなのに、「内向き志向」のもと、この国際信義が揺らいでいる。

インドやパキスタンまで核保有が進み、NPTはもはや風前の灯である。なのに、非核保有国の日本は今でも「唯一の被曝国として核武装はしません」とお定まりの思考停止に陥っている。

国全体でその思考停止から脱却するには時間がかかる。ならば、プルトニウムで即対応というのは悪い考えではない。重要なのは、それを「(日下氏のような)評論家の突拍子もないアイデア」にとどめることをせず、政府のアイデアにし、世界に発表することだ。

その情報戦略は確実に中国や北朝鮮の核攻撃を抑止する。突如、安倍政権が発表するのは、日本が「極右」化したように受け取られ、マイナスの方が大きいというなら、政府に近い専門家、例えば、元幕僚長といった自衛隊幹部のOBや閣僚ではない自民党の政治家に公式の文書などで発言させる手もある。複数の元OBや政治家の発言はメディアの記事となり、それを「どう思うか」と政府に質問してくる。

政府はOBらと事前にシナリオを話し合っておき、官房長官が質問に答える。

「今、政府にプルトニウム戦略などは存在しないが、興味深い戦略として検討したい」とかなんとか言って、日本政府に「やる気があるな」という印象を世界に与えることが情報戦略として重要だ。

中国や北朝鮮に対するだけではない。米国など他国も日本の出方を見守っている。日本が「本気だ」と判断されれば、米欧や中国が反応し、外交は変わり、日本の抑止力は確実に上がる。現状を不安視している日本人をも安心させる。

西尾幹二氏は「正論」平成28年4月号にこう書いている。

アメリカや他の国は日本の出方を見守っているのであって、日本の本気だけがアメリカや中国を動かし、外交を変える。(米国、中国、ロシア、韓国、北朝鮮との)六ヵ国協議は日本を守らない。何の覚悟もなく経済制裁をだらだらつづける危険はこのうえなく大きい

その通りである。六ヵ国協議には日本が自力でやろうという「本気」が感じられないからで、各国はそのやる気を見抜いている。

今の不安定な世界情勢下において、北朝鮮の核弾頭が東京のど真ん中で炸裂し、一千万人以上の死者が出るという事態が起こっても、決して奇異ではないだろう。世界はもちろん驚くが、次の瞬間には、アメリカの約束(核の傘)のむなしさと日本の無策ぶりへの憐れみを口々に語るばかりであろう。東アジアはその後なにもなかったかのような平静さを取り戻すのに一年は要すまい

(北朝鮮という)独裁国家の核開発を見て、生き物としての私の嗅覚がうごめく、大丈夫なのか?と。生物に具わった防衛本能である。……やられる前に叩く、は、古今東西において変わらぬ自己保存の鉄則ではないか。ぐずぐずしていては間に合わない。日本では上から下まで、政府からメディアまで、一段と経済制裁を強めろ、とワンパターンに語る。北朝鮮に対し上からの目線で、偉そうに言うが、アメリカの虎の威を借りての空語(である)。……たとえ経済制裁は国連決議だとしても、国連がどこかの国を防衛したことが一度でもあっただろうか。日本政府は国連の意向を尊重する前に、まず自国民の安全を最優先させねばならず、その目的のためにむしろ国連を動かし、利用するようでなければならないのだ。すべての国がそうしているように