世界中で残された数少ない有望な未探鉱地域としてさいきん注目を浴びている地中海東部地域。その中でも開発移行を間近に控えた「リバイアサン・ガス田」からのヨルダン向け販売契約は、地政学的なゲーム・チェンジャーとなるかと期待されている。
本件に関し、ヨルダンの経済産業担当副首相にインタビューしたFTが、東京時間9月26日の朝5時ごろ ”Jordan presses Israel for concessions” と題して報じている。
筆者の興味にしたがい、要点を次のとおり紹介しよう。
・両国は2014年、ヨルダン国営電力向けに15年間にわたり150億ドル相当、1.6兆立方フィートのガス(LNG換算約200万トン/年)を供給するLOI(Letter of Intent)を締結済み。
・イスラエルのハイファ沖合に位置する「リバイアサン・ガス田」は米Noble Energyがオペレーターで、イスラエルのDelekなどがパートナー。エジプトへの販売も計画中。
・これらの契約は、イスラエルが周辺のアラブ諸国との困難な政治的関係を変換する地政学的なゲーム・チェンジャーになる可能性がある。
・ヨルダンのJawad Anani副首相は、「契約内容はほぼ合意済みだが、まだ問題がある」として、当該締結がもたらす国内の反発を抑えるためにイスラエルの譲歩が必要だとしている。
・ひとつはイスラエルが占領しているパレスチナへの輸出市場の4分の1から5分の1にあたる年間10億ドル分シェアーであり、もうひとつはヨルダンとの国境までの26km支線パイプラインの建設費用(約7,000万ドル)のイスラエル負担である。
・両国は1994年に平和条約を締結しているが、両国間の貿易量は微小かつ圧倒的にイスラエル過多であり、さらにウエストバンクへの輸出はイスラエルが独占している。ウエストバンクの輸入業者は、ヨルダンとの東部国境を含めパレスチナの国境をすべて支配しているイスラエルが、他国を排除し自国の業者に有利になるように定めた品質管理規則などを使い市場を独占している、と非難している。
・これらヨルダン側要求にイスラエルがどう反応するかは不明。
・投資家とともに、米国政府もヨルダン政府に当該契約に調印することを推奨している。
・ヨルダン政府も、2011年の「アラブの春」の余波で関係が悪化したため途絶えてしまったエジプトからの安いガスの代替供給が必要なことは認識している。
・然し、パレスチナ人が国民の半分以上を占めるヨルダンでは、当該契約がイスラエルボイコットを要求する街頭での抵抗運動を引き起こし、また国会内にも反対する勢力が存在している。
・Anani副首相は、当該契約を法律で正式に認知する必要があるかも知れないし、また国民の不満を抑えるために「イスラエルのガスを買うが、同時にパレスチナ市場への輸出市場を拡大し、ヨルダン人の仕事を増やす」のだ、と言っている。
・関係者であるNoble Energy、Delek、イスラエルのエネルギー省はいずれもコメントを避けている(declined)。
・イスラエルと西寄りのヨルダン国王は、両国の安全保障確保に緊密に協力しているが、エルサレムの聖地を巡る問題を含め、両国間には何度か対立が生じている。2014年にはヨルダンがイスラエル大使を一時的に召喚する事態も発生した。
・イスラム教徒が “Noble Sanctuary” と呼び、ユダヤ教徒が “Temple Mount” と呼んでいるesplanade(丘、聖地)は、ヨルダン国王のアブドラ二世が守護者の役割を担っている。
うーむ。
世の中はすべからく、経済合理性だけでは動かないんだなぁ。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年9月27日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。