特別養子縁組団体からなる、「日本こども縁組協会」呼びかけ人の駒崎です。本日は、許されざる事件とその報道について、日本こども縁組協会として、事件関係者にもヒアリングを行った情報に基づき、解説を行い、声明を発したいと思います。
当該団体は、我々の協会とは一切関係ありませんが、しかし特別養親縁組に関わる事件だったことから、あえて社会的にメッセージを出したいと思いました。
どんな事件だったか
「養子あっせん団体に事業停止命令 優先紹介へ現金要求」朝日新聞デジタルhttp://bit.ly/2d6jkJg
が最もしっかり経緯をフラットに報道しているため、こちらを一部引用させて頂きます。
—-引用—-
千葉県は27日、社会福祉法で定める「不当な行為」にあたるとして団体に事業停止命令を出した。厚生労働省によると、養子あっせんの停止命令は全国初とみられる。
この団体は同県四街道市の「赤ちゃんの未来を救う会」。
(中略)
東京都の夫婦は50代の夫と40代の妻。県や夫婦によると、夫婦は昨年11月、ネットで養親希望者に登録。主にメールや電話で連絡をとった。今年2月、負担金のうち100万円を先に払えば「優先順位が2番目になる」と持ちかけられ、4月に団体の銀行口座に振り込んだ。5月には「来月出産予定の子どもがいる」と残る125万円も要求され、現金で支払った。
夫婦は6月中旬に生まれた男児を助産院で引き取った。その後、生みの母が「最終的な同意の確認なく連れ去られた」と県に相談し、男児は夫婦の関係者らを介して7月初旬に戻された。
養子あっせんをめぐっては、2013年に一部団体が養親希望者から不透明な寄付金を得ていることが問題となり、厚労省が児童福祉法が禁じる営利目的のあっせんをしないよう団体への指導監督の徹底を自治体に通知。この中で金品の支払いを優先条件とすることを禁じている。
—引用終了—–
つまり、正当な対価(かかった費用)を特別養子縁組団体が受け取る事は問題ないのですが、お金を払うから優先順位を上げるという事はダメですよ、ということです。(また、実親の同意撤回に対して、子どもをすぐに返さなかったこともダメな点です。)
この「優先順位とお金の紐付け」という違反を犯してしまったことが、史上初の業務停止(*1)へとつながったわけです。
*1
処分の内容;
社会福祉法72条第1項に基づく事業の停止命令
処分理由;
(1)法第70条に基づく報告の求めに応じない
(2)福祉サービスの提供を受ける者の処遇につき不当な行為をした
背景
こうしたことが起きる背景には、「制度の不在」があります。
特別養子縁組の仲介と言うのは、児童福祉に関する高い専門性と倫理意識が求められます。しかし、現在は、第二種福祉事業と言う届け出さえ出せば、誰でも始めることができる制度になってしまってます。
本来であれば保育園のように、ある一定の基準に基づいて、認可される仕組みでなくてはならないはずです。しかしそうした仕組みが存在せず、誰でもできるようにしてしまっている。これが問題の本質です。
特別養子縁組あっせん法案
実は、こうした異常とも言える状況を変えようと言う動きもあります。それが超党派の議員たちがこの臨時国会で提出しようとしている特別養子縁組あっせん法案です。
特別養子縁組あっせん法案では、特別養子縁組を行う民間団体を許可制にしようという仕組みになっています。これによって、今回のような明らかに違法性が高い運営を行っている団体をキックアウトできるのです。
誤解による報道を行うメディア
一方で、今回問題だったのが、既存の制度や法律にあまり詳しくないメディアの方々が、バイアスのかかった報道を行っていることです。
例えば、読売新聞です。
現金受け取り養子あっせん、県が業者に停止命令
http://www.yomiuri.co.jp/national/20160927-OYT1T50123.html
この見出しは、あたかも現金を受け取ったことが問題であるかのように感じさせる内容です。
しかし、養子縁組支援においては、補助金は1円も頂けません。よって、縁組までにかかった費用(交通費や出産費、ソーシャルワーカーの人件費、団体運営費等)については、養親から頂かざるを得ません。
ですので、現金(であろうが振込であろうが)を頂くことは、何ら不当ではありませんし、厚労省通知によっても認められています。よって、論点がずれてしまっています。
また、毎日新聞の報道などでは、「養親が産院から連れ去った」とありますが、日本こども縁組協会は、養親、養親の弁護士、そして問題のあった縁組団体からの独自のヒアリングを行ったところ、実親の翻意があったのは事実ですが、養親が「連れ去った」という事実はない、ということでした。
さらに、時事通信の報道( http://bit.ly/2ddRqMo )でも、事実関係を取り違えた説明がなされています。「同会に不審感を抱いた女性が県に相談。県が夫婦宅で男児を見つけ、女性に返した。男児にけがなどはなかった」とありますが、実母さんが最初に相談したのは警察です。またその後、千葉県警が会の事務所を訪問。そこに当然子供はおらず、同時に警察が千葉県へ通報した、という流れです。したがって県が子供を保護したわけではなく、ホテルの一室で養親が直接、実母に児童を返した、というのが実際の状況です。
事業者が不法な行いをしたことは事実で、彼らの行為は許されざるものですが、彼らのことを信じた養親たちもまたある意味被害者です。しかし、一方的な報道が行われることによって、非常に深い心理的な傷を負っているようです。
メディアの方々は、ぜひ報道の前に、専門機関に問題の背景や事情についてお問い合わせを頂けたらと思います。もちろん日本こども縁組協会も、できるだけ力になりたいと思います。
再発を防止するために
現在、野田聖子議員や田嶋要議員らが、臨時国会に提出しようとしている「特別養子縁組あっせん法案」ですが、残念ながらいまだに与野党間で調整がついていないようです。一刻も早く、与野党の建設的な話し合いが行われ、調整をつけ、法案提出をすることが、非常に重要です。そして許可制を実現することが、こうした事件の再発を防ぎます。
ぜひ国民の皆さんには、与野党の国会議員に法案の実現を呼びかけて頂けると、嬉しいです。
特別養子縁組は、予期しない妊娠をした実親を救い、子ども達を救い、子どもを育てたい養親たちの願いを叶える、素晴らしい制度です。そうした制度が、適切に世の中に広がっていくよう、関心を持って頂けることを、願っています。