稲田防衛大臣が民進党の辻元議員の靖国参拝を取り止めたことを過去の言動との矛盾を追及され涙ぐむということがありました。ヒラリーも2008年の大統領候補キャンペインで涙ぐんだことを、大統領の資質とからめて、かなり問題視されましたが、防衛大臣が涙ぐむというのはあまり好ましいことではありません。
男性より女性がよく泣くというのは一般的な事実でしょう。涙は女の武器とも言いますが、女性に泣かれて閉口した経験をもつ男性も多いと思います。しかし、女性が男性より沢山泣くのはなぜなのでしょうか。女性が男性より泣くのは社会的に女性は泣くことが許されているからだという説があります。
確かに、キャリアウーマンが仕事の場面で不用意に涙を流すと「所詮、あいつも女」だと思われてしまうため、泣くことが少なくなるということはありますが、社会的な規範自身、元々女性が泣きやすいために生まれたとも考えられます。
人が涙を流すのは眼球附属腺の一つの涙腺が刺激されるからですが、涙腺は自律神経の一つの副交感神経の影響下にあります。自律神経は、手や足の筋肉を動かす体性神経の反対で、自分の意志ではコントロールできません。玉ねぎを切って涙がでるのを意識的に止めることもできませんし、涙を流したいときに自由に涙を流すこともできません。
俳優が演技で涙を流す時、俳優は役になりきって悲しさを現実の体験として感じてしまう、あるいは何か悲しいことを思い出して泣こうとします。涙を直接流すことはできないので、涙を流すような場面を疑似体験する必要があるのです。
涙腺を刺激するのは強い情動です。感激したり、嬉しくても涙は出ますが、圧倒的に、特に女性では悲しい時や悔しい時に出る涙が多いでしょう。それでは悲しい時に涙が出る、つまり副交感神経が活性化するのはなぜなのでしょう。悲しい思い、つらい体験は人間にとってストレスです。
強いストレスがかかると副交感神経ではなく、もう一つの自律神経の交感神経が活性化されます。ストレスで刺激を受けた交感神経はアドレナリンの分泌を促進したり心房の収縮によって鼓動を早めたりします。緊張したり怒ったりすると心臓が自分でも判るほどドキドキするのはそのためです。自律神経で動かされる心臓も涙腺同様自分の意志ではコントロールできません。
ストレスでアドレナリンが出たり、心臓の鼓動を早めるのは進化の過程で身に着けたものです。危機に対応するために「身構える」ために緊張状態になるわけです。しかし、緊張状態を長く続けるというのはストレスを貯めていることになります。このため交感神経が作り出したストレス状態を和らげるために副交感神経が登場します。副交感神経は心臓の鼓動を下げ、リラックスさせる働きがあります。
交感神経が、覚醒、活動を支配するのに対し、副交感神経は睡眠、安静を支配します。副交感神経は交感神経により過剰にストレスが働かないために、交感神経が強く刺激された後に働き出すのですが、同時に涙腺も刺激します。つまり、悲しいというストレスを緩和するために副交感神経が働き、その結果涙が流れるのです。
涙はストレスの結果でもありますが、ストレスの緩和という点ではより積極的な役割を果たします。
涙を出す、特に号泣するとセラトニンという脳内麻薬の一種の分泌が活発になります。セラトニンは過剰な興奮、抑うつ感を和らげる働きがあるため、泣くことで悲しいことで陥る抑うつは緩和します。進化の過程の中で、狩りをする男は、獲物を前にしたり猛獣に遭遇した時に、アドレナリンを多量に分泌して得た緊張状態を、泣くことであっさり解除することは危険を招くのに対し、女性は緊張状態のストレスを早めに小さくすることの方を選んだのかもしれません。
また、女性は乳腺を刺激して授乳を促進するなど女性に多いプロラクチンというホルモンを多く持っていますが、プロラクチンは涙腺を刺激して涙を誘発します。さらに女性は感情を司る右脳と論理を司る左脳とを結ぶ脳梁が男性より太く、感情と論理がつながりやすいと言われています。特に他人の話を聞いて涙ぐむような共感力と脳梁の太さは関係しているようです。確かに女性は男性より泣きやすく作られていると考えられます。
セラトニンは「号泣」すると多く分泌すると言われるように、「じっと悲しさを耐え」ていてもあまり分泌されません。泣くのなら派手にワン泣きした方が良いわけです。では本当は悲しいことなど何もないのにワン泣きするとどうなるでしょうか。映画の中で主人公が愛する人に死なれて一人残される、主人公に感情移入した観客は泣くだけ泣いて映画館を出ると現実には号泣するような悲しいことはない。号泣で分泌されたセラトニンによる抑うつの緩和や幸福感だけがそこには存在することになります。泣かせる映画は、泣くことで得られる多幸的な状態を得ることができます。わざわざ泣くためにお金まで払って映画を見るのは、泣くことで幸せな気持ちにさせてくれるからです。
男性よりよく泣く女性の方が「泣かせる映画」を好む理由もわかります。悲しい映画は思い切り泣かないと多幸感を得ることなく、陳腐なストーリーのつまらなさだけが際立ったりするからです。女性が好むために、泣かせる映画の主人公は薄幸だがほとんど例外なく美人です。強い情動を動かすのは主人公に対する強い共感、脳科学的にはミラーニューロンによって他者の行動を自分の行動と感じることです(ミラーニューロンは人が殴られる瞬間思わず目をつむるような働きをします)。男は逞しいヒーロー、女は美しく可憐な乙女に自分を投影するため、女性の観客を集める映画の主人公は美しくなければならないのです。
ところで、日本で自殺する人の7割は男性です。逆に言えば女性は3割ですから、男性は女性の2倍以上自殺していることになります。自殺の原因として、会社を経営して業績不振で借金だらけ、街金に追いかけられ、明日になると不渡り手形が出て倒産、もはや万事休す。こういう状況に陥るのは男性の方が多いでしょうが、恋人に振られる、子供に死なれる、癌で余命を告げられる、このような不幸に遭遇することが男性の方が女性より多いとは思えません。
男性と女性の自殺件数の違いは、男性より女性がずっと沢山泣くことにあると考えるのはそれほど飛躍した考えではなさそうです。不幸に会った時、男性がひたすら苦しみ、時として死を選んでしまうのに対し、女性はまず泣くことでつらさをかなり解消しているのではないでしょうか。
女性は男性より沢山泣くことでストレスを解消が容易に行うことができ、そのために自殺の割合が大きく違っているとすると、「男は泣いてはいけない」などと痩せ我慢をせず、男性もどんどん泣いてみる、それもセラトニンの分泌が活発になるように号泣してみたらどうでしょう。世の中には死んでしまった方が良いという目に会うことはあります。
そんな時、男性も思い切り泣いて取りあえずすっきりしてしまえば何か良い知恵も湧いてくるかもしれません。少なくとも死ぬよりは泣く方がずっとましな解決方法であることは間違いありません。
しかし、防衛大臣が強いストレスを受けるような場合。例えば他国が日本を攻撃した時に、泣くことで自分だけストレスを解消しても何も解決しません。大臣が泣きだしては部下は不安に感じるだけでしょう。野党の質問程度で涙ぐむ稲田大臣は感情と涙腺との関係を意志で断ち切る訓練が必要なようです。
※アイキャッチ画像は国会中継より引用(編集部)