イタリア政府は10月4日に初めてとなる50年債を50億ユーロ相当発行した。2067年償還の50年債に対する応募は185億ドル余りに上り、応募者利回りは2.85%で決まったそうである(WSJの記事より引用)。
イタリアの格付けはムーディーズで「Baa2」、S&Pは「BBBマイナス」となっており、投機的水準(いわゆるジャンク債)の一歩手前にある。そういった国が50年もの長い期間の国債を発行するのは極めて異例ともいえる。
イタリアが50年という長い期間の国債を発行できるのは、いくつかの要因が絡んでいる。ギリシャを発端とした欧州の信用不安により、当事国のギリシャだけでなく、ポルトガルやスペイン、イタリアの国債も下落した。イタリアの10年債利回りは一時危険ラインとされた7%を超える場面もあった。しかし、その欧州の信用不安は関係各国の努力もあり、次第に収まった。
金融市場の沈静化に効果があったのがECBによる積極的な金融緩和策であった。これによりイタリアの長期金利は、1%台にまで低下した。欧州だけではなく、日本の中央銀行である日銀も、欧州の信用リスク後退など関係なく、アベノミクスというものの登場で、異常ともいえる金融緩和策を講じた。その結果、日本の10年債利回りがマイナスとなった。この日本の投資家だけでなく、金利の低下に運用が厳しくなった世界の投資家は、少しでも高い利回りの国債を求めるようになり、それがイタリアでの50年国債の発行を容易にさせた面もある。
50年を超える国債発行は2005年2月にフランスが発行し、イギリスも同年5月に発行した。ほかにポーランドやスイスも50年債を発行していた。今年に入りベルギーとスペインも初の50年債を発行し、フランスも新たに50年債を発行した。またアイルランドとベルギーは私募で100年債を発行したそうである。
日本での最長の国債は40年債である。少し前に日本でも50年国債の発行が検討されていると伝えられたが、検討はされていたかもしれないが、その後特に発表はない。この際にはいわゆるヘリコプターマネー論議のなかでのものとなっており、日銀の引き受けを前提としたようなかたちで日本の財務省が50年国債を発行することは考えづらい。しかも40年国債の流動性が、それでなくても日銀の買入により落ちていることで、少しでも超長期債の流動性を高めることが先決であろう。
とはいえ低金利のうちに、しかも投資家ニーズが旺盛なうちに、なるべく長めの期間の国債を発行することは利払い負担の軽減ともなる。いずれ日本でも50年国債や、60年償還ルールのもと、借換債の発行を必要としない60年国債の発行が検討されることもあるかもしれない。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年10月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。