ローマ法王フランシスコはグルジアとアゼルバイジャンの訪問(9月30~10月2日)からローマに帰国途上の機内で慣例の記者会見を開いた。南米出身のフランシスコ法王はジェンダー問題について興味深い話を披露する。
「10歳の男の子を持つ父親から相談を受けたことがある。彼は息子に『将来、何になりたいか』と聞いたところ、男の子は『女の子になりたい』と答えたという。ショックを受けた彼は『学校でジェンダー教育が行われていることを知った』という。ジェンダー理論が学校で積極的に展開されているわけだ」と語った。
フランシスコ法王はまた、「神父、司教時代、自分はホモだという同性愛者たちがいたが、彼らを『あちらへ行け、君はホモだからだ』とはいわなかった。イエスがそうであったように、彼らの人生の随伴者にならなければならないからだ」と述べている。
ローマ法王は昨年、バチカンで一人のスペインの男性と会った。彼は女性として生まれたが、いつも男性のように感じてきた。そこで性転換手術を受けた。彼が法王に手紙を書いてきた。彼は女性だったが、今は男性だ。そして妻を連れてローマにきた。
法王は彼らを迎えた。彼らは幸せだった。罪は罪だが、彼らの人生をそのまま受け入れなければならない。我々は彼らを追放せず、随伴しなければならない。そして一つとなれる道を模索しなければならない。それはイエスが歩まれた道だ。これらは人間的問題だ。解決しなければならない。ただし、常に神の慈愛のもとで行わなければならない」と強調している。
誤解がないように説明すると、フランシスコ法王は同性婚には反対している。婚姻は男性と女性の間によるものという立場だ。ただし、同性愛者に対しては「罪だ」と断言し、切り捨てることは避けている。
人間の性は自然に生まれたものではなく、社会、環境によって構築されてきたものだと主張する者もいる。だから、女性蔑視の社会を変革しなければならないわけだ。経済、生産諸関係の下部構造が政治、宗教、哲学の上部構造を規定するというカールマルクスの理論とどこか似ている。フランスの実存主義者シモーヌ・ド・ボーヴォワールの著書「第2の性」の考えに通じる。すなわち、社会が男性と女性を作ってきたというわけだ。しかし、明確な点は生物学的性差は生まれた時からあった。後天的ではない。
20世紀前半、英国などで生まれたフェミニズム運動は戦後、拡大し、ジェンダー・フリーを生み出してきた。同時に、同性愛者が増えてきている。厳密にいえば、一種のブームだ。ジェンダー理論の甘い声に従って不自然な性愛に溺れる者も出てきた。メディアはそれを煽っている。
人類始祖アダムとエバの婚姻が破壊されたように、現在の悪魔は家庭、婚姻を破壊するために多様性と寛容という言葉を使いながら攻撃を仕掛けている。それに対し、伝統的な家庭と婚姻は守勢を余儀なくされてきた。ローマ法王は「婚姻に対する世界戦争(Weltkrieg gegen die Ehe)だ」(バチカン放送独語電子版)と警告を発している。
実例を挙げる。フランシスコ修道院に所属していた2人の元修道女(44歳と40歳)が先月末、イタリアのトリノ近郊で結婚した。イタリア人女性と南アフリカ女性の同性愛カップルだ。彼女らは教会からの婚姻祝福を願ったが、断られた。そこで元神父が婚姻の祭事を担当したという。2人の元修道女はイタリア日刊紙ラ・レプッブリカとのインタビューの中で、「教会は同性愛者を認めるべきだ。われわれは修道院から出ていくが、教会を離れる考えはないし、信仰は捨てない」と述べている。
「このニュースを知ったフランシスコ法王の表情は苦渋に満ちていた」(ジョヴァンニ・アンジェロ・ベッチウ大司教)という。「婚姻に対する世界戦争」の戦場はバチカンの足元まで広がってきたのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年10月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。