大学の進学先を迷っている高校生や卒論の研究室を考えている大学3年生のみなさんにとって、研究室はよくわからない場所でしょう。
研究室は教員によって千差万別でしょうから一般化して「これだ」という事は難しい。ここでは(理系の)大学の研究室で学べることは何かについて、私なりの考えを書いてみます。
学生のみなさんが将来の進路を考える上で少しでも参考になれば良いのですが。
研究室とは、学生が教員、先輩や後輩とチームを組み、世界トップの研究成果を出すという目標に向かって、プロジェクトを計画、実行し、その成果を発表するところ、と私は思っています。
どうやって新しい分野を開拓し、厳しい競争の中サバイバルしていくか、を研究の実践を通じて学ぶわけです。
理系では大学院の修士まで進学する人が多い。学部4年の卒業研究の時から同じ研究室に在籍すると、合計で3年間、研究室で過ごすわけです。
3年の時間があれば、いわゆるPDC(Plan Do Check)サイクルを何回かまわし、試行錯誤しつつも、(多くの場合は)世界初の成果にたどり着くことが可能になります。
もちろん綺麗ごとばかりではなく、失敗したり、悩んだり、人間関係の摩擦があったり、教員や先輩・後輩と試行錯誤するプロセスにこそ、大学の研究室の価値があるのではないか、と思っています。
以上に書いたことは当たり前、と思う人も居るでしょう。
一昔前の理系、特に工学部の研究室では、特定の産業に対して、専門知識を持った人材を提供する、という側面があったかもしれません。今でもそのような研究室もあるでしょう。
ただ現在のように技術も産業構造も急速に変化する時代では、多くの産業・事業が入社してから定年まで持続することが難しくなってきています。ですから、大学の研究室で学んだ知識で一生食べていくのは難しい。
研究室で専門知識・スキルを取得することはもちろん重要ですが、それだけでなく、変化する時代を先取りしていく力を身に付ける事こそ、研究室での教育として大事だと考えています。
知識そのものは陳腐化しても、新しい分野を開拓していく手法・プロセスというのは案外、変わらないものです。
狙った分野の状況を分析し、自らの状況(実験施設や資金、スキル)を考えた上、どこに攻めどころがあるか探り、勝てる戦略を立てる。
そして戦略に基づいて研究を実行し、成果を英語を使った発表を通じて世に知らしめる。
もちろん現実の研究はそんな綺麗事ではなく、なかなか思った成果が出なかったり、やっとの思いで成果が出ても、すんでのところで競合相手に先を越されたり。そんな経験のすべてが血となり肉となるのではないでしょうか。
企業でもOJT(On-the-Job Training)が行われますが、企業と研究室の違いは、営利目的・教育目的という面だけでなく、規模にもあると思います。
大学の研究室は企業に比べればちっぽけな組織です。指導教員や先輩とひざを突き合わせるような近い距離で世界のトップを目指す。
私も卒業研究と修士の3年間を通じて、日々の過ごし方からアイデアの生み出し方、時には生みの苦しみなど、良いことも大変なことも含めて、世界トップを目指すとはどういうことかを学ぶことができました。
研究をするためには資金が必要ですから、資金集めの苦労もあります。そういう指導教員の姿を間近に見ることができたのは、かけがえのない経験でした。
もちろん、こういった大学の研究室の価値は在学中は気付きませんでした。
企業に就職して、組織に入って初めて、ディシジョンメーカーと新入社員の自分とは随分距離が遠いのだなとわかりました。
そして、あんなに濃密に指導教員や先輩とお付き合いできたのは、実はすごく貴重な経験だったのだと気付かされました。
重ねてになりますが、これだけ技術や産業構造の変化が激しいと、知識もすぐに陳腐化します。大学の時に学んだ知識だけで、その後何十年も過ごすことなど不可能です。大学を卒業してからも学び続けなければいけません。
私自身も研究室で学んだ個々の知識よりも、先生方や先輩の考え方、生き様から学んだことの方が、今の自分の血や肉となって残っていると感じます。
ここに書いたことを実践するためには指導教員が(苦しみながらも)ハンズオンで世界の土俵で戦い続けていることが大事です。
最後は自分へのカツになってしまいましたが、進学先を迷っている学生のみなさんに少しでも参考になればと思います。
編集部より:この投稿は、竹内健・中央大理工学部教授の研究室ブログ「竹内研究室の日記」2016年10月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「竹内研究室の日記」をご覧ください。