プミポン国王の崩御とタイ王制の深刻な危機

八幡 和郎
プミポン

88歳で逝去したタイのプミポン国王(CNNより引用:編集部)

プミポン国王の死去で緊張が高まるタイの情勢だが、「世界の王室うんちく大全」(平凡社新書)という拙著で詳しく紹介したので、その一部を補足とともに紹介する。短縮してますので、興味がある方は拙著を参照して下さい。 

明治天皇の治世と同時期のチュラーロンコーン大王(ラーマ5世)は、ミュージカル「王様と私」で知られるラーマ四世の子だが、チャクリー改革を行い、タイの近代化に成功した。

そのおかげで、ビルマやマレーに英国が、インドシナにフランスが進出してくるなかで、領土は少し奪われたものの、独立を保持した。その子であるラーマ6世と7世は、近代化には熱心に取り組んだが、財政難が深刻化し、嫌気がさしたラーマ6世はイギリスに出かけたまま帰国を拒み、やがて退位した。

ラーマ5世には77人の子がいたが、第69子ながら母親の身分が高く医療の改善に辣腕を振るって国民の声望が高かったソンクラーナカリン王子の遺児ラーマ8世が即位した。母親は金細工師の娘ながら王室に仕えて認められてアメリカに留学して知り合ったシーナーカリンだった。ラーマ8世はピストルで頭を撃ち抜かれて急死した。自殺、他殺、事故のいずれとも分からない謎の死である。 

そこで、弟のプミポン(アメリカ生まれ)が18歳で即位した。しかし、まだ、学業半ばだったので、摂政を立ててスイスのローザンヌ大学で学び、留学していた従兄弟のシリキット王妃と結婚した。1952年に帰国したのち、軍部を尊重しつつも一定の距離は保ち続け、最後の調停者としての立場を失わず、クーデター騒ぎがあっても政権の継続性を決定的には失わないように収めてきた。 

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皇太子とは思えぬ外見のワチラロンコーン王子(netgeekより引用;アゴラ編集部)

ところが、皇太子であるワチラロンコーン王子が素行が悪く国民の人気もない。http://netgeek.biz/archives/85236

前国王には王女が3人いて、そのうち2人はアメリカ人(のちに離婚)、平民と結婚して王位継承権を失っているが、シリントーン王女は聡明で温厚で評判が良い。

プミポン国王は皇太子とシリントーン王女のいずれにも王位継承権を持つことを意味するマハという称号を与えている。後継の国王は、「国王による後継者についての指示」、それがなければ枢密院の指名とされているが、いまのところ、指名がされたとは、少なくとも公表されていない。 

さらに、タクシン派と反タクシン派の対立がある。タイでは王室に対する不敬行為に対してはたとえ外国人であっても厳しく罰せられるので、様々なことが活字などでなく風評で伝えられることも見通しをますます不透明にしている。ひとつの仮定としては、プミポン国王はシリントーン王女に傾いており、それを枢密院議長をつとめる保守派の長老であるプレーム・ティンスーラーノン(元首相、陸軍大将)が支持し、焦る皇太子をタクシン派が取り込んでいるとかいわれた。 

タクシン派(赤シャツ)と反タクシン派の対立では、国王が反タクシン派と近いと見られており、それがゆえに調停者として機能しないという状況にあるのは確かだ。 

なお、ワチラロンコーン王子は、シリキット王妃の姪で従姉妹であるソムサワリー王女と結婚して王女を得たものの離婚し、三度の結婚をしているが相手に問題が多く国民の不信を買っている。 

プラユット暫定首相はテレビ演説で皇太子が即位すると明らかにした。暫定憲法によると、内閣の通知を受けた暫定議会議長が議会を招集し、皇太子に即位を要請。その後、国民に公示する手順のはずだ。 

ただ、プラユット氏は皇太子に拝謁後、皇太子が「国民と共に哀悼する時間を持ちたい」と、即位を遅らせるよう求めたと述べたが、『シリントン派』を警戒する皇太子周辺にとって王位継承まで空白期間が生じるのは得策ではないはずで、意図が読めないと言う声も出ている。

歴史に謎はない(近現代史)

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