ドイツで大規模な爆発テロを企てようとしていたシリア人、Jaber Albakr (22)が12日夜(現地時間)、拘置施設内で自身のTシャツを使って首つり自殺した。昨年ドイツ入りした Albakr はイスラム過激派テロ組織「イスラム国」(IS)メンバーとみられ、ドイツ国内のISネットワークなどについて尋問を開始する直前の自殺だった。それだけに、ドイツ当局は大きな衝撃を受けている。同時に、今回の爆発テロ未遂事件では逮捕から自殺までザクセン州警察、司法当局側のミスが目立ったことも歪めない。
先ず、事件の概要を紹介する。
Albakr はシリア人難民として昨年、ドイツに入り、同国東部ケムニッツに住んでいた。警察の家宅捜査では彼の部屋から約1・5kgの爆発物が見つかっている。警察側の発表によれば、Albakrはベルリン国際空港の爆発を計画していたという。
警察側は8日、Albakrを逮捕するために自宅を襲撃したが、男は逃亡。警察当局は彼の写真を公表し、行方を追った。10日になって、独東部ライプチヒで同じシリア人出身の3人の難民によって拘束され、警察側に引き渡された。その2日後、Albakrは拘置所内で自殺した。
ザクセン州警察と司法当局は今回の事件で2つの大きなミスを犯した。
①警察側は8日、シリア人が住む自宅を襲撃したが、その際、自宅包囲体制が薄く、その隙間からAlbakrは逃亡した。警察側は本来、2重の包囲網を敷くべきだったが、包囲体制が希薄だった。それ故に、ケムニッツで男を逮捕できなかった。
②拘置施設内の警備だ。拘置施設関係者は『男が自殺をする危険性がある』として15分から30分間の間隔で男の部屋を監視していたが、男がTシャツで首をつるのにまったく気がつかなかった。警備体制で落ち度があったと言わざるを得ない。自殺の危険性があるとして、Albakrを独房ではなく、他の囚人と一緒の部屋に拘置すべきだった。
ただし、拘置所に収容する前、精神分析担当官は「自殺する危険性はない」と判断する診断を下していた。そこで拘置所側は15分間から30分間のインターバルで男の部屋を監視していた。男の国選弁護人アレクサンダー・ヒューブナー氏は、「司法側のスキャンダルだ」と強調しているほどだ。与野党からは、「ザクセン州の司法はテロ対策でミスを重ねた」といった批判の声が高まっている。それを受け、カール・エルンスト・トーマス・デメジエール連邦内相は、「Albakrの自殺の全容解明」を要求している
Albakrが自殺したことで警察側は国内のISネットワーク、爆発物入手経路など詳細な情報を入手できる道を失ってしまった。警察側にとって大きな痛手となったことは間違いない。同時に、今回の爆発テロ計画の主犯者が昨年ドイツ入りしたシリア難民の中に紛れ込んでいたことから、メルケル独首相の「難民歓迎政策」への批判が再び高まることは必至だ。
ドイツでは昨年までイスラム過激派テロ事件は発生しなかったが、今年に入り、独南部バイエルン州のビュルツブルクで7月18日、アフガニスタン出身の17歳の難民申請者の少年が乗っていた電車の中で旅客に斧とナイフで襲い掛かり、5人に重軽傷を負わせるという事件が起きた。また、同じバイエルン州のアンスバッハでは7月24日、シリア難民の男(27)が現地で開催されていた野外音楽祭の会場入り口で持参した爆弾を爆発させた。
ところで、Albakrはなぜ拘置所内で自殺したのだろうか。尋問を恐れ、裏切り者になることを避けたかったのだろうか。それとも……。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年10月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。