写真は元永知宏氏
プロ野球人気が再び脚光を浴びている。日本野球機構(NPB)によると2016年の観客動員数は、セ・パ公式戦入場者数24,981,514人で過去最高を記録している。しかもセ・パ両リーグともに過去最高を記録している。当初は、テレビなどの中継が少なくなったことから低迷することが懸念されたが、どこ吹く風である。
10月22日からは日本シリーズという最高の舞台がくり広げられている。しかし、この時期に球界を去る選手も少なくない。彼らの中には、甲子園や大学野球で華々しく活躍し大きな期待を背にプロの道に進んだ選手がいる。しかし、伸び悩み、ケガに苦しみ、挫折感を味わいながらユニフォームを脱いで野球人生に別れを告げる。
■6名のドラフト1位の軌跡を追う
引退後にポストが用意されるのはごくわずかと言われている。監督、コーチ、球団職員として残ることは狭き門である。しかし人生のゲームセットはまだまだ先である。新たな挑戦者のストーリーはこれからも続いている。
いま一冊の本が注目を集めている。『期待はずれのドラフト1位―逆境からのそれぞれのリベンジ』(岩波ジュニア新書) である。
著者の、元永知宏(以下、元永)は、私の知人でありビジネスパートナーである。大学野球出身の根っからの野球好きでもある。1989年、立教大野球部4年時に、23年ぶりのリーグ優勝を経験する。大学卒業後、“ぴあ”に入社。関わった書籍が「ミズノスポーツライター賞」優秀賞を受賞する。その後は、フォレスト出版、KADOKAWAでビジネス書の編集者として活動し、現在はフリー編集者として独立をしている。
本書には、過去のドラフト1位で入団し現在は引退した選手の軌跡をルポルタージュで追っている。次の6名が、登場人物である。
1990年ドラフト1位 横浜大洋ホエールズ 水尾嘉孝
1999年ドラフト1位 阪神タイガース 的場寛一
2007年ドラフト1位 北海道日本ハムファイターズ 多田野数人
2001年自由獲得枠 日本ハムファイターズ 江尻慎太郎
1994年ドラフト1位 読売ジャイアンツ 河原純一
1993年ドラフト1位 阪神タイガース 藪恵壹
簡単にその内容について紹介しておきたい。水尾嘉孝(以下、水尾)は明徳義塾高から福井工業大学を経て、1990年ドラフト1位で横浜大洋ホエールズに入団する。1995年からオリックス・ブルーウェーブでプレーし、1997年にはリーグトップの68試合、1998年にも55試合に登板するなどセットアッパーとして活躍した。2006年に現役引退。プロ通算成績は、269試合登板、7勝9敗2セーブ、防御率3.42。現在は、自由が丘にあるイタリアン「トラットリア・ジョカトーレ」のオーナーシェフである。
水尾が横浜大洋ホエールズからドラフト1位指名された際の契約金は史上最高額(当時)の1億円として話題になった。当時のこの額は、佐々木主浩(ハマの大魔神)を上回っていた。しかし成績は伸び悩む。1991年は一軍登板なし。1992年は0勝3敗、1993年は0勝1敗、1994年も0勝1敗。故障の影響もありさっぱり勝てないのである。
そんなときに、サイドスローへのフォーム変更を打診される。しかし水尾はこれを拒否する。その後は、陰湿なイジメに近いような対応を受けるが水尾はあきらめなかった。ほかの選手が「お前といるとにらまれる」と嫌がっているのを無理やり頼み込んでピッチング練習に付き合ってもらったそうだ。
1994年にオリックス・ブルーウェーブ(現・バファローズ)に移籍をする。しかし、名将である仰木彬監督の元で努力が実を結ぶことになる。1995年初勝利。その後は、前述したとおりの実力が開花し中心選手として活躍をする。2006年に現役引退。
水尾が次に選んだ職業は料理人だった。引退は38歳だったので、48歳で一人前になればいいと考えた。下積みを経験して、時間をかけてじっくり覚えようと覚悟を決めたそうだ。しかし、実際に経験するとプロ野球のほうがはるかに厳しかった。その水尾は、現在、「トラットリア・ジョカトーレ」の、オーナーシェフとして第二の人生を謳歌している。
■選手のセカンドキャリアとは
プロ野球選手の多くは引退後の生活に不安を感じている。そして、彼らが感じている不安の多くは家族を養うための収入なのである。本来は野球に関連する仕事が理想だが、監督やコーチなどは、フロントとの関係性や監督との相性が重視される。
また、成績を残していたとしても非常に倍率が高く就任できるのはごく僅かである。野球のテレビ中継やラジオ中継も減少しているので、解説者やキャスターというポジションも狭き門といえよう。指導者も人気が高い。元プロ野球選手が指導者になるには教諭経験というハードルがあったが、このルールが緩和されたことで、規定の研修と審査のみで資格が得られるようになった。
本書に紹介されているように、引退後のキャリアパス、実際に活躍している元選手の情報がOPENになってくれば不安も解消するように思う。また、ドラフト1位選手の辺境からのリベンジは味わい深い。何歳になっても「人生はこれから」であることを教えてくれる。
尾藤克之
コラムニスト
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