人を採用し、育成し、幹部に登用するのが人事の課題であることは、いつでも、どこでも、変わらないが、力点を、優秀な人の登用に置くか、そうでない人の削減に置くかは、本質的な差である。
人事は、三つのRが課題なのである。第一のRは、Recruit、即ち、引き寄せ(採用)、第二のRは、Retain、即ち、引き止め、そして第三のRが、Release、即ち、引き離し(退職)である。もっとも、最後のRは、普通は、Retireというところだが、定年退職や自己都合退職の意味合いだけでなく、企業の立場からする人員削減の意味も込めて、Releaseにしておく。
人事の課題を一言でいえば、優秀な人材(幹部候補生)を引き付け(採用し)、そのなかから幹部を登用して引き止め(辞めないようにし)、剰余となった人材を引き離す(辞めてもらう)、これに尽きる。もっとも、こういう表現は、直截的にすぎて、企業の視点で人を商品のように扱う感じで、聞こえは良くないのだが、表現を直しても、主旨は変わりようがない。
さて、企業にとって、この三つのRの全てが永遠の難問なのだが、企業の置かれた環境により、経営判断として、どれかに最重点課題としての力点を置かざるを得ないことは自明である。
日本では、経済成長期には、採用という第一のRが最大の課題であり、次いで人材の育成と登用という第二のRが重要だったのである。第三のRは、組織に余裕があり、どの人にも人事異動により何らかの適任の職務を用意できる限り、大きな問題ではなかったのだ。
ところが、低成長経済に陥ったときから、第三のR、即ち、人材を減らす、中核人材以外は辞めてもらうという課題が一気に浮上してくる。これは革命的なことなのだ。制度というものは、人事に限らず、一度確立し長年にわたり定着してしまえば、もはや、容易には変え得ない。容易に変え得ないものを無理に変えれば、革命的な破壊と再構築にならざるを得ない。
しかし、古いものの破壊的側面ばかりに着目して、破壊の後に来るべき新しいものの創造的側面を見失うことはできない。はっきりいって、人事戦略において、短期的な経営課題を追うあまり、長期的な成長戦略を疎かにすることはできないのだ。
日本産業の置かれた厳しい現実があるとしても、どのようにして苦境から脱却するかといえば、やはり、当然のことながら、人の働きによるほかはない。人の処遇というのは、人件費という費用でもあるが、人への投資という側面も否定できない。
人の成長を前提にし、人への投資を行うことは、期待への処遇を生む。企業は、期待に報酬を払う以上、投資損失を回避し、期待報酬部分を成果によって回収しようとする。故に、人材の育成と登用が重要になる。つまり、第二のRは、第三のRの重要性が増したとしても、何ら変わることなく、重要であり続けるのである。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
HC公式ウェブサイト:fromHC
twitter:nmorimoto_HC
facebook:森本紀行