電通報道を検証する。経営者は社員と家族を幸せにすべきだ!

尾藤 克之

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写真・藤井正隆氏。

先日、アゴラに投稿した「電通新入社員自殺報道で考える!本当に『いい会社』とは何か?」には多くの意見をいただいた。厚く御礼を申し上げたい。一方で「理想論だ」「青臭い」などの意見もいただいた。この場を借りてあえて補足をしたい。理由は、経営というものは、そもそもの成立ちが「理想論」で「青臭い」ものだからである。

■経営とは「理想論」で「青臭い」ものである

経営者が、事業(やりたいこと)を見つけて推進するために会社が設立されて組織が形成される。経営者の思いやビジョンが経営理念やミッションとなり行動規範となる。そして、所属する組織構成員の働き具合や成果に応じた報酬が支給される。経営者の思いを達成するために組織構成員が所属し行動も規定される。経営とはロジカルに見えるが、一方で「理想論」で「青臭い」ものだということが理解できる。

今回の事件に際しては、電通の元社長である吉田秀雄によって1951年につくられた電通社員、通称「電通マン」の行動規範「鬼十則」を知らばければいけないだろう。もちろん、働く姿勢を示した行動規範として重要なことも含まれている。しかし、経営を展開するなかで遵守すべきことが置き去りにされている。

戦後、経済復興の時代に出された鬼十則は、世の中の共感を受け、広く伝わることになった。働く姿勢を示した行動規範として重要なことも含まれている。しかし、今回のような悲惨な報道を受けると、まさに、経営の目的が何なのかを改めて考えさせられる。

電通は、毎年ダイヤモンド社が発表している就職人気ランキングで上位につけている。学生本人や親、学校のキャリアセンターの職員といった就職に関わる人は、どのような判断軸で評価しているのか興味深いところでもある。

今回も、人を大切にする経営学会の理事、(株)イマージョンの社長であり、『「いい会社」のつくり方』(WAVE出版)の著者である、藤井正隆(以下、藤井)氏に、「いい会社とはなにか」という論点について伺った。

■「いい会社」とは何か?

――藤井は、企業の実態を正しく理解するためには、戦後から現在に至るまでの会社の変遷を整理すべきだとしている。

「戦後、1990年初頭のバブル崩壊以前までは、大きな会社、有名な会社がいい会社と言われ、大手企業に入ると、『いい会社に入ったわね!』と周りから言われたものです。バブル崩壊以降は、デフレ経済の進行に伴ってリストラが急速に増加しました。2008年には、ブラック企業に関する本が出版されて映画にもなりました。」(藤井)

「最近は、ブラックバイトが問題になっていますが、当時のブラック企業問題の対象は正社員でした。ブラック企業では、長時間労働、サービス残業、各種ハラスメントなどが常態化していますが、その対象が正社員から非正規、アルバイトにまで拡大していることを意味します。これは極めて特異な傾向であり注視しなければいけません。」(同)

――2008年に出版された『ビューティフルカンパニー』(嶋口充輝慶応名誉教授)では、強いだけでなく品格のあることがこれからの会社の条件としている。同年、同書の解説の中心になっている『日本でいちばん大切にしたい会社』(坂本光司法政大学院教授)が出版された。2010年に出版された『いい会社とは何か』(小野泉、古野庸一)では、1980年~2000年にかけて、経済の成熟化に伴い、社会全体としての目標・希望の喪失に伴い、やりがいが徐々に薄らいでいったことが示されてる。

■経営者は社員と家族を幸せにすべきだ

――また、藤井は坂本(法政大学院教授)らが主張する「いい会社」は“5者を幸せにする”といった主張について次のように説明している。「企業経営とは、会社に関わりのあるすべての人びとを永遠に幸せにするための活動である」と定義したうえで、「誰の幸せを追求すべきか」という命題を掲げて優先順位をつけている。以下が、その順位となる。

1位.社員とその家族
2位.社外社員(取引先)とその家族
3位.現在顧客と未来顧客
4位.地域社会(とくに社会的弱者~障がい者、高齢者など)
5位.株主

「坂本教授は、学生時代には、『業績、株主、そして顧客第一』と教わってきたそうです。しかし、全国の経営の現場を見て回ったところ、実情は違うと感じて疑問を持つようになります。業績向上や成果を追い求めたあげくに倒産した会社が山ほどあったからです。一方で、順調に業績を伸ばしているのは、『社員第一を貫いて繁栄している会社』であることに気がついたのです。」(藤井)

「結果的に社員の幸せを念じて、人を幸せにしようとする会社が立ちいかなくなった例は見当たりませんでした。また、ホワイト企業で上位ランクにある企業の中で、取引先に厳し過ぎる会社は、『いい会社』ではありません。自社が、ホワイトで福利厚生を充実させているしわ寄せが、取引先に波及する可能性が高いからです。」(同)

■「いい会社」を規定する2つの論点

電通に限らず、今だに、売上利益を最優先に社員を犠牲にしている会社の経営者は、何度も繰り返して自問すべきだ。藤井は次の2点を問題提起として掲げる。

1)売上や利益は、本当に企業の目的か?
2)本来、企業の目的とは、関わる人の永遠の幸せを追求することではないのか?

「リストラ、人事制度の変更、管理強化、非正社員化など様々な要因により、会社と社員の間にあった信頼感は低下し、『仕事のやりがい』の喪失に拍車をかけました。豊かな時代に生きている日本で、物質的な欲求より心の豊かさに重きを置く傾向が強くなるなか、やりがいや働きがいのある会社が『いい会社』ということになります。」(藤井)

本物の「いい会社」を増やすためにはどうしたら良いのだろうか。「理想論だ」「青臭い」と称する人もいるが、一つの回答がここにある。経営者、経営企画部門や人事部門に所属する人はもちろん、多くのビジネスパーソンに手にとってもらいたい。

尾藤克之
コラムニスト

PS

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