【映画評】湯を沸かすほどの熱い愛

渡 まち子
湯を沸かすほどの熱い愛 (文春文庫 な 74-1)

銭湯・幸の湯を営む幸野家では、1年前に父・一浩がふらっと出奔。銭湯は休業状態だが、母の双葉が持ち前の明るさと強さで、パートをしながら娘・安澄を育てていた。ある日、双葉は職場で倒れ、末期ガンで余命2ヶ月と宣告される。双葉はショックを受けながらも、残された家族がしっかりと生きていくために、絶対にやっておくべきことを決め、実行していく…。

死にゆく母が残された家族に大きな愛を伝えるヒューマン・ドラマ「湯を沸かすほどの熱い愛」。本作を、よくある難病もののお涙頂戴映画と思ったら大間違い。実によくできたユニークかつ感動的な家族ドラマなのだ。双葉は愛と母性にあふれた聖母のような女性で、自分の不幸を嘆くよりも、残された家族のことを最優先に考える強い人だ。彼女がやろうとしているのは、いい人だがダメ人間の夫を連れ戻して銭湯を再開させる、気が優しすぎて学校でイジメにあっている娘を独り立ちさせ、ある人に会わせる、ということ。その他にも、夫が他の女性に産ませた子どもを引き取って家族として受け入れたり、ヒッチハイクで旅をする青年に生きる意欲を与えたりもする。そして、双葉だけしか知らない秘密の決心も実行に移していく。そんな母の行動は、いつしかバラバラだった家族を強い絆で結んでいくのだが、ひとつひとつのエピソードが丁寧で、ユーモアもあり、しみじみと心にしみる。

単なる泣きの演出ではなく、すべて未来へとつながる要素があるのがいい。ここには、血のつながりを超えた部分でしっかりと結びつく、素晴らしい家族の形がある。身体は細いが、心は大きくたくましい、肝っ玉母さんのような双葉を演じる宮沢りえをはじめとして、キャストはすべて好演で、家族としてのアンサンブルは劇中に登場するピラミッドのごとく絶妙なバランスだ。自分たちを温かい愛で包んでくれた母を、残された者たちが究極の方法で葬(おく)るラストは、ちょっと衝撃的で、いろいろな意味で忘れらない余韻を残してくれた。
【75点】
(原題「湯を沸かすほどの熱い愛」)
(日本/中野量太監督/宮沢りえ、杉咲花、篠原ゆき子、他)
(慈愛度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年11月2日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookより引用)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。