憲法学者の欺瞞を暴いて大反響を呼んだ井上達夫氏とよしりんの対談だが、タイトルほどの激論ではなく、井上氏が(頭の悪い)学生に教える個人授業という感じだ。彼の話も今までの繰り返しが多いので改めて紹介しないが、おもしろいのは彼が徴兵制を可能にする憲法改正を提案していることだ。
集団的自衛権の議論で「徴兵制になる」という類の話が野党から出たが、これは徴兵制が悪だという先入観にもとづいている。他方、政府は徴兵制は「苦役」を禁じた憲法に違反しているというが、この解釈はおかしい。今の憲法でも徴兵制は可能だが、井上氏は憲法を改正して「兵役に服する義務」を明記すべきだという。
この理由は戦争をどんどんやれというのではなく、逆である。井上氏は「志願兵制だと、志願する必要などないマジョリティたる国民が無責任な好戦感情に駆られたり、政府の危険な交戦行動に無関心になりやすい」ので、すべての国民に兵役の義務を課して、自分や子供が戦争に行くかどうか判断をさせることが戦争の歯止めになるという。
アメリカではミルトン・フリードマンが徴兵制の廃止を提案し、大論争の末、1973年に廃止された。ベトナム戦争の兵役拒否で、反戦運動が起こったからだ。しかし徴兵制がなくなってから、むしろ戦争は増えた。国民が無関心になったからだ。
現実には自衛官候補生の倍率は3.8倍、防衛大学校の倍率は93.8倍なので、戦力としては徴兵制の必要はない。ハイテク戦争に素人を召集しても、戦力にならない。兵役の年齢になっても、大部分の兵士は予備役に編入されるだけで、生活は変わらない。フランスでは16~18歳の全国民が予備役になるが、やることは1日限りのビデオ講習だけだ。
しかし自分が戦争に行く可能性があると、「個別的自衛権はいいが集団的自衛権はだめだ」といった意味不明の話より、どうすれば戦争に行かないですむかを考えるだろう。北朝鮮の暴発を防ぐには日米韓で協力することが必要で、憲法より命が大事だ。国民にそういう当事者意識をもたせることが徴兵制の目的である。
戸部良一氏は、日本軍がアジアでいち早く高い戦力をもつようになったのは徴兵制のおかげだったと指摘している。武士のような「終身雇用」は、戦争のときはいいが、平和になると無為徒食になってしまう。日本軍は徴兵制にして大部分の兵士を予備役に切り替えることで、大幅なコスト削減と戦力の強化を実現したのだ。