今年も「ユーキャン新語・流行語大賞」の候補が発表された。以前、この選考委員会のメンバーであり、『現代用語の基礎知識』編集長の清水均さんにインタビューをしたことがある。もう2年も前だが。
流行語大賞の「メディア陰謀説」は本当か 「集団的自衛権」「ダメダメ」W受賞はなぜ?
http://toyokeizai.net/articles/-/56483
この賞の誕生と、広がり方は実に奇妙で。もともと「もう流行語なんて生まれない」と言われた時代に始まっている。相対的に存在感もましているように思う。最初の回などは取材が少なかったそうで。いまはテレビ、ラジオ、新聞だけでなく、ネットニュースもPVがとれるネタとして扱う。
アスリートファースト/新しい判断/歩きスマホ/EU離脱/AI/おそ松さん/神ってる/君の名は。/くまモン/頑張れ絵/ゲス不倫/斎藤さんだぞ/ジカ熱/シン・ゴジラ/SMAP解散/聖地巡礼/センテンススプリング/タカマツペア/都民ファースト/トランプ現象/パナマ文書/びっくりぽん/文春砲/PPAP/保育園落ちた日本死ね/(僕の)アモーレ/ポケモンGO/マイナス金利/民泊/盛り土/レガシー
選考委員会の声にもあったが、今年は「豊作」だと言われている。候補語を見て、やや安心したのは、今年はヒット商品・作品に恵まれた年だったと言うことだ。『おそ松さん』『君の名は。』『シン・ゴジラ』『ポケモンGO』など、映画、アニメ、ゲームなどに関する言葉も多数入っている。小池百合子知事関連の言葉も多数だ。
しかし、何と言っても台風の目は、週刊文春絡みだろう。直接、この媒体に絡むもの、この媒体が最初に報じたものなどが多数ランクインした。そう、今年は間違いなく文春の年だった。強力な取材体制、姿勢でニュースを連発した年だった。こうなると、情報も最初に文春に集まるようになる。テレビのバラエティなども文春を元ネタに番組をつくるようになる。ネットと連動した仕掛け、特集のスピーディーな電子書籍化などの動きも見事だった。
「豊作」と言いつつも、全体の田畑が実ったわけではなく、局地的な豊作とも言える状態であり、他は凶作くらいではなかったか。他の媒体には、文春に負けない取材姿勢、体制が求められるのだが、それができないから、こうなっているとも言える。しかし、競合媒体が頑張らなくては、ジャーナリズムもバランスを欠いたものになってしまう。流行語大賞をめぐっても、それが鮮明になってしまった。
それにしても、国民的な流行などもう生まれないと思いつつ、今年は国民的な一騒動が多かったことも、この流行語大賞のノミネート状況から感じられる。格差も広がり、価値観も多様化する中で、我々は国民的なものをどこかで求めたり、逆に突きつけられているようにも思う。
個人的には、「働き方改革」なるものが叫ばれつつある中、関連するキーワードがなかったこと(保育園落ちた日本死ねは関係あるといえばあるが)も印象的だった。別にこの大賞が全てというわけではないが、この改革なるものの虚しさを物語っていないか。
なお、『現代の基礎知識2017』では私も「働き方事情」というコーナーを担当している。ぜひ、読んで頂きたい。このコーナーからのノミネートはゼロだったが。ここ数年、担当したコーナーからノミネートされた言葉が出ていたので、残念である。
流行語大賞にノミネートされた「こじらせ女子」の仕掛け人、雨宮まみさんの冥福をお祈りしつつ。
編集部より:この記事は常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2016年11月18日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた常見氏に心より感謝申し上げます。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。