11月8日の米大統領選挙における予想を覆してのトランプ候補の勝利を受けて、世界の金融市場の景色が変わった。21日の米国株式市場ではダウ平均、ナスダック、S&P500種株価指数の3指数そろっての過去最高値更新となった。ドルも上昇し、ドル円は一時112円台に乗せてきた。さらに米国債は売られ、米10年債利回りは2.3%台に上昇した。
この背景にはトランプ氏の経済政策への期待がある。積極的な財政政策や規制緩和等を推し進めるとの期待を背景に、物価の上昇や財政赤字の拡大なども予想されることで、株やドルは買われ、米長期金利は上昇した。物価上昇観測はFRBの正常化の後押しともなる。このため12月のFOMCでの利上げ観測が強まり、市場は来年の再利上げも視野に入れつつある。これも米長期金利やドルを上昇させた要因となった。
ただし、トランプ氏から具体的な政策が公表されているわけではない。いまのところ大統領着任初日に大統領特別命令でTPPからの撤退を発令すると宣言した程度となっている。
具体的な政策が打ち出されずともトランプ氏の登場で金融市場の潮目が変化したのは、期待感だけでなく、そちらの方向に向けたエネルギーが蓄積されていたともいえる。これは2012年11月あたりからの日本でのアベノミクスと呼ばれた現象とも似ている。
米国金融市場の影響は、当然ながら日本の金融市場にも影響を与えた。急速な円安と米株高を受けて東京株式市場は上昇基調となり、日経平均は18000円台を回復した。トランプ氏の勝利で一時的に日経平均は16000円近くまで下落したが、すぐに17000円程度に切り返し、そこからじりじりと上昇してきた格好となった。
トランプ現象は日本の債券市場にも影響を与えた。円安株高も要因ではあるが、それ以上にFRBの追加緩和観測も手伝っての米長期金利の上昇により、日本の国債利回りも上昇した。今年1月の日銀のマイナス金利政策の導入決定を受けて、日本国債の利回りは一時20年債までマイナスとなった。超長期ゾーンはプラス金利を回復した。しかし、10年債利回りは9月の日銀による長短金利操作付き量的・質的金融緩和の決定で一時的にプラスになる場面もあったがマイナスが継続していた。ところがトランプ候補の勝利とそれによる米長期金利の上昇を背景に、11月15日に日本の10年債利回りはプラスに転じたのである。
中期ゾーンの金利も上昇したが、これに対して日銀は17日に中期債を対象とした初の国債指し値オペを実施した(応札額はゼロ)。日銀の目的が水準を意識したものなのか、それとも利回り上昇ピッチを警戒したものかは不透明ながら、これで中期ゾーンの利回り上昇はいったん抑えられた。しかし、超長期債を中心に利回り上昇は続いている。
日銀にとって円安株高は願ったり叶ったりとなる。原油先物はOPECの生産調整を巡って下落する場面もあったが、再びWTIは50ドル台に迫るなど、原油価格の底打ちもあって日本の物価も今後はマイナスを脱してくる可能性も出ている。
ただし、イールドカーブコントロールを打ち出した以上は、国債利回りの上昇についてはあまり容認できないところでもあろう。しかし、米国の長期金利の上昇やドル高を背景に海外投資家の円債への巨額投資に今後変化が起きる可能性もある。日本の国債利回りが今後さらに上昇圧力が強まれば、日銀が無理矢理それを押さえつけるような事態になることも予想される。
今後はマイナス金利政策そのものの意味も問われよう。すでに債券市場は需給バランスなどでかなり歪なものとなっているが、それがさらに歪になってしまうこともありある。日銀はそろそろ正常化路線に戻れとまでは言わないまでも、マイナス金利政策あたりは撤回することも視野に入れる必要もあるのではなかろうか。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年11月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。