11月8日の米大統領選挙の結果、事前の予想を覆してトランプ氏が勝利した。大統領選挙の開票が行われていた時間に開いていた東京市場では、トランプ氏の優勢が伝えられると、日経平均は一時1000円以上も下げ16000円に迫った。しかし、10日の日経平均は1000円を超す上昇となって昨日の下げ分を埋めた。それどころか、そこからじりじりと上昇し、18000円台を回復した。
この背景にあったのがドル高円安であり、ドル高の要因となったのが米長期金利の上昇となった。米長期金利の上昇の背景には、インフレへの懸念や米国の財政赤字の拡大懸念があった。さらにそこは12月のFOMCでの利上げ観測も強まりもあった。
このような背景ではあったが、米国株式市場は利上げ観測や財政悪化などを理由に売られるどころかむしろ買い進まれた。11月21日の米国株式市場ではダウ平均、ナスダック、S&P500種株価指数の3指数そろって過去最高値を更新している。
つまりトランプショックとも呼ばれた市場の動揺は一時的であり、むしろ金融市場ではトランプ氏の政策への期待感が強まったことになる。トランプ氏は既存概念を打ち破り、新たな政策への期待感が強まった。保護主義などへの懸念はあるものの、法人税減税などの財政政策や規制緩和への期待感が強まった。
米国経済を見ても雇用面などがしっかりしており、FRBは歩みは遅いながらも正常化を進めてきた。すでにリーマン・ショックやギリシャ・ショックと呼ばれた世界的な危機は過去のものとなりつつある。日米欧の大胆な金融緩和も限界が見えてきたというよりも、その必要性が後退してきた。時代は危機対応から正常化への過程が、このトランプ氏の登場により、より明確になってきた。
この金融市場の現象が一時的なものであるのかどうかは不透明ながら、少なくともドル円でいえば、今年初めのリスク回避の動きが始まる前の水準である120円近辺に戻ってもおかしくはない。日経平均は2万円という大きな節目も意識される。
円安株高の流れは日銀にとっては願ってもないものとなろう。ただし、米長期金利が今後さらに上昇するとなると、日本の債券市場を取り巻く状況が変わってくる。日銀は9月の金融政策決定会合でイールドカーブコントロールとオーバーシュート型コミットメントを打ち出した。しかし、これにあまりに縛られすぎると日本でも先行きの金利上昇期待が強まっても、日銀に金利が無理矢理押さえつけられる懸念がある。そもそも日銀が本当に金利を抑えられるのかという疑問も残る。トランプ氏の登場をきっかけに様変わりした金融市場を取り巻く環境変化に日銀がどう対応するのかも興味深い。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年11月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。