ネガティブ・エクイティと言えば、サブプライム危機で覚えた方も多いのではないでしょうか?住宅価格の下落により、ローン残債額が物件の担保価値を下回る状況を指しますよね?
そのネガティブ・エクイティ、再びアメリカでバズワード化の兆しが現れています。
今回、対象となるローンこそ・・はい、自動車ローンです。
自動車情報サイト運営のエドマンズによると、1〜9月の間に新車購入のため下取りに出した自動車のうち32%がネガティブ・エクィティだったのです。前年同期の30%、5年前の22%を上回りました。ネガティブ・エクィティ平均は4,832ドルと、統計開始以来の最悪を更新。自動車販売価格平均が約3.3万ドルですから、15%に相当します。ちなみに統計を開始した2005年はサブプライム危機以前の2005年にあたり、ネガティブ・エクィティ平均は3,662ドルでした。
ネガティブ・エクイティのマイカーを下取りして新車を買ったのであれば当然、債務の比率も上昇します。自動車購入価格に占める借入の割合は100%を突破し、不健全そのもの。ローン支払い期間にも当然ながら影響し、エドマンズの調査では69ヵ月と5年前の63ヵ月から長期化していました。
米10月新車販売台数は1年ぶりの1,800万台に迫り好調そのものに見えましたが、売れ筋に変化が現れています。これまで快調な売上を誇っていたトラック、スポーツ多目的車(SUV)などが前年割れを示し、セダンや小型車が善戦中。それがまさかネガティブ・エクイティの自動車を下取りに出し、比較的手頃な価格帯の新車に乗り換えるためだったとは・・・アメリカ人、恐るべし。
ローン負担を軽減するために、わざわざ新車を買うなんて信じられませんよね?いえいえ、中古車市場でも同じ現象を確認済みです。こちらをご覧下さい。
中古車販売に占める下取りした自動車のネガティブ・エクィティ比率は25%と、過去最高を塗り替えました。またネガティブ・エクイティ平均も7〜9月期に3,635ドルと、増加トレンドを突っ走っています。
赤い丸印が中古車販売に占める下取りしたネガティブ・エクィティ比率。
アメリカ人にとって、自動車は生活のための足。必需品なだけに、自動車は必ず確保すると見られ某銀行取締役をして「自動車ローン証券は比較的安全な商品である」と言わしめるほど。従って余程のことがない限り、差し押さえ多発に伴う自動車版サブプライム危機は回避されるでしょう。しかし、仮に金利上昇が継続すれば買い替えに支障をきたす恐れあり。ドル高による企業収益の圧迫で採用が抑制されれば、買い替えを希望する個人の望みすら断たれかねません。ネガティブ・エクィティのマイカーを逞しく乗り換える余裕がアメリカ人に残る一方、自動車ローン返済負担増を受けた他の消費へのしわ寄せも心配されます。トランプノミクスでいかに雇用を創出するかが、重大なカギを握ること間違いありません。
(カバー写真:Thomas Hawk/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年11月30日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。