先週11月24日(木)の時点では、筆者にとってのサプライズは「合意しないこと」だった(弊ブログ「改革の痛みが始まり、サウジ副皇太子のハネムーンは終わった」参照)。きっと賢い事務方が「見目麗しい」結論を考えだし、発表されるだろうと思っていた。
だが、その後流れてくるニュースは、サウジ、イラン、イラクの間に根深い対立があり、合意は困難だろうというものばかりだった。これらに市場も反応し、NYMEXのWTIは下押ししていた(11月29日終値$45.23)。
それでも筆者は、最後は合意するだろう、合意したと発表するだろう、と考えていた。経済合理性を考えたら、合意しないことはすべてのOPEC加盟国にとって自殺行為以外のなにものでもないからだ。サプライズがあるとすれば、4月のドーハ会議と同じくサウジの副皇太子が政治的判断に基づき「一切の妥協を許さない」指示を出してくることだった。それがゆえにサウジの国内情勢が気になっていた次第だ。
さて、昨日(11月30日)の第171回OPEC総会は、10月対比で約120万BD減産し、2017年1月から6ヶ月間3,250万BDを生産上限とする、ということで合意した、と報道されている(日経『OPEC、8年ぶりに減産合意 原油相場の回復優先』12月1日、2:16am)。市場は見事に反応し、NYMEXのWTIは25億バレルという空前の取引(これまでの最高は前回OPEC総会時の9月28日の16億バレル)の末、4.21ドル(約9%)上昇、49.44ドルの終値をつけた。
今後の市場動向を判断するために、OPECのプレスリリースを読んでみた。すると興味深い事実を発見した。カラクリがありそうなのだ。メデイアはまだ報じていないが、気がついた記者がそのうち指摘するだろう。
プレスリリースは、プロトコロールから始まり、字数制限があるので詳細は省くが、これまで何度か発表している現状認識を示している。その現状認識に基づき、9月のアルジェ協定(Alger Accord)を実行に移すべく、OPEC14カ国の生産目標(production target)を3,250万BD上限とし、非OPECとの協調を追求していく、となっている。
さらにOPEC各国が調印した契約(Agreement)では、次のような記載がある。
・クエート国を議長とし、アルジェリアとベネズエラ、それに非OPEC2カ国をメンバーとする大臣級のモニター委員会が本合意の実行状況をモニターし、総会に報告する。
・この契約は、60万BDの減産をすることになっている、ロシアを始めとする非OPEC産油国との協議と理解をもって成立した。
さて、もっとも興味深いのは「合意した調整量と生産水準」なる表だ。
この表にある14カ国の「参照生産水準(Reference production level)」を合計してみると、3,124万BDとなる。空欄になっているインドネシア(一時停止)とリビアとナイジェリア(免除)の数値を「OPEC11月月報」記載のとおり加算すると3,421万BDとなり、今回減産の基準3,364万BDより57万BDほど多い。
つぶさに見てみると、アンゴラの「参照生産水準」は「9月」のものを使用する、と注記してある。9月が175万BDで、10月が159万BDだから、ここに16万BDの差がある。
もっと大きな差がイランにあった。
この表では、イランの10月生産量は398万BDとなっているが、「OPEC11月月報」によると369万BDとなっており、その差は29万BDもあるのだ。
アンゴラとイランの合計が、減産の出発点としている3,364万BDより45万B.Dも多いことになる。両国の実質減産幅は小さいものになるのだ。
さらに奇妙なことに、調整量合計は116万BDとなっており「約120万BD減産」という発表の根拠となっているのだが、なぜかイランだけは「9万BDの増産」となっている! イランは増産していいよ、ということだろうか。
それでいて新しい生産水準として、イランの欄には380万BDと記載されている。
「3,975+90=3,797千BD」
つじつまがあわない!
398万に9万の増産を容認するので、イランの生産水準は407万BD、と読んでいいのだろうか。
真相は分からない。
だが、OPECの事務方の苦労の末の「見目麗しい」合意発表と言えるだろう。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年12月1日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。