ベージュブック、ドル高への警戒度を小幅ながら引き上げ

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米連邦準備制度理事会(FRB)が30日に公表したベージュブック(10月8日から11月18日までカバー)によると、米経済は引き続き拡大(continued to expand)した。

(経済全般)
クリーブランド地区連銀がまとめた今回のベージュブックでは、前回に続き経済活動が「緩慢(modest)あるいはゆるやか(moderate)」に拡大したと報告。前者(modest)ではアトランタ地区連銀のほか、シカゴ地区連銀、セントルイス地区連銀、ダラス地区連銀の4行、後者(moderate)ではボストン地区連銀をはじめミネアポリス地区連銀、サンフランシスコの3行が名を連ねる。一方でフィラデルフィア地区連銀やクリーブランド地区連銀、カンザスシティ地区連銀の3行は、「わずかな(slight)」拡大ペースにとどまった。リッチモンド地区連銀は「まちまち(mixed)」で、NY地区連銀は前回に続き「横ばい(flat)」だった。見通しについては概して「前向き(positive)」で、6地区連銀が「ゆるやかな」成長を予想した。

(ドル高をめぐる表記)
ドル高をめぐるネガティブな表記は、総括にて3回登場した。前回は2回で、7~9月分公表のベージュブックがゼロだったことを踏まえると、ドル指数が2003年以来の水準へ上昇する過程でドル高懸念も高まりつつあるようだ。各地区連銀からの指摘は5回と、前回の4回から増加。表現は以下の通りで、地区連銀では3行がドル高への懸念を表明した。前回のダラス、クリーブランド、リッチモンドからリッチモンドが去り、ボストンが加わった。3行は全て、製造業での向かい風要因を挙げている。

・ボストン、2回「製造業の3社がドル高と弱い商品先物価格により売上が鈍化し、そのうち2社はドル高により欧州での利益が弱まった」・クリーブランド、1回「ドル高は、鉄鋼輸出に下方圧力を加えた」
・ダラス、2回「見通しはポジティブだが、ドル高が輸出の向い風要因」、「化学関連企業ではドル高により輸出の需要が低下したが、11~12月に予想を上回る受注を確認した」

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(作成:My Big Apple NY)

ドル指数、トランプノミクスへの期待感から2003年以来の水準へ急伸。

(中国)
中国というキーフレーズが登場した回数は3回連続でゼロとなった。2015年9月に初め中国が盛り込まれた当時の11回から徐々に減少し、1年経過して漸くゼロへ戻した格好だ。

(全体のキーワード評価)
今回、総括部分で使用されたキーワードの登場回数(同じ単語の変化形を含む)はまちまちだったが、「増加する」の表現が増え12月利上げに沿う内容と言える。3月公表分のベージュブックを最後に暫く使われなかった言葉「不透明性」は、10月公表分にカムバックしてから今回一段と多く登場した。10月分は商業不動産のリース部門にて米大統領選への不透明性につき懸念が上がっていたが、今回は以下の3つとなる。 1)リッチモンドとセントルイスでの自動車販売の軟化は米大統領選における不透明性に依拠の可能性 2)ボストンは海外観光客の力強さを指摘するも、一部の業者はドル高トレンドが続いた場合、2017年に好調トレンドが続くか不透明との見方を表明 3)クリーブランドは求人や採用などの活動低下について、米大統領選に関わる不透明を指摘以下、キーワードの登場回数と前回との比較。

「増加した(increase)」→23回<前回は18回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→12回>前回は8回
「緩やか(moderate)」→10回>前回は4回
「緩慢(modest)」→17回<前回は10回
「弱い(weak)」→4回<前回は8回
「底堅い(solid)」→1回>前回は1回
「安定的(stable)」→1回>前回は2回
「不透明性(uncertain)」→3回=前回は1回

主な項目の詳細は、以下の通り。

(個人消費)
個人消費は「まちまち(mixed)」と報告。前回の全体的に「ほぼ変わらず(appeared little changed)」から下方修正した。小売売上高が好調で、特に服飾と家具で売上増加が目立った一方、新車販売台数はほとんどの地区連銀で「わずかながら減少(declined slightly)」したという。

(製造業)
製造業活動の需要は「まちまち」で、前回の「地区連銀によって相当分かれた(varied)」とほぼ変わらず。ただし受注の増加を報告したいくつかの地区連銀からは、ドル高が逆風要因との指摘が挙がった。また設備投資で改善がみられた。

(労働市場、賃金、物価)
雇用は拡大を続け7地区連銀(ボストン、NY、フィラデルフィア、アトランタ、シカゴ、セントルイス、ダラス)が「ひっ迫」を報告し、前回の「ひっ迫したまま(remained tight)」の状況に近い様子が伺える。

賃上げ圧力は前回に続き、「控え目(modest)」だった。控え目と報告した地区連銀はボストンやNY、フィラデルフィア、アトランタ、カンザスシティ、ダラスの6行。セントルイス、サンフランシスコ、ミネアポリスの3行は「ゆるやか(moderate)」だった。リッチモンドの賃上げ動向は「わずか(slightly)」で、クリーブランドは「職種によって顕著(more evident for select occupations)」だったという。ダラスは「広範囲(widespread)」だった。

インフレ自体は全体的に「わずかな(slight)」上昇を示し、前回の「穏やか(mild)」から若干の上方修正となった。

(建設、不動産)
不動産市場は全般にわたって「改善(improved)」したが、一戸建てと複合住宅ではまちまちだった。前回は、建設と不動産活動について「拡大(expanded)」となる。商業不動産は7地区連銀(NY、クリーブランド、リッチモンド、アトランタ、セントルイス、カンザスシティ、サンフランシスコ)で「加速した(moved higher)」。前回、不透明要因として挙げられた米大統領選挙に関連する「不透明性」のキーワードは、登場していない。

(エネルギー、農業関連)
エネルギー関連は原油価格が40~50ドル台で安定的に推移するなか、「全般的にゆっくりと改善し続けた(continued to improve slowly)」とし、前回の「安定の兆し(signs of stabilization)を確認した」から上方修正した。ダラスをはじめ、2017年にかけ需要が回復するとの見方が優勢で、こちらも前回より楽観的な表現に修正。ただし、ダラスやアトランタでは、原油とガソリンの過剰在庫の指摘が挙がっていた。

農業は前回まで3回連続で「まちまち(mixed)」で、今回も「さまざま(varied)」とほぼ変わらず。全般的には今年の収穫に満足していたものの、商品価格の低迷が引き続き農家の収入の重石となった。

(カバー写真:cmh2315fl/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年12月1日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。