随分古い本ですが、米長邦雄棋士が昭和57年に書いた「人間における勝負の研究」という本を読みました。時代錯誤の内容も含まれていたりしますが、勝負の世界に生きた人ならではの深い洞察がとても参考になりました。
将棋の世界で見えてきた様々な洞察がエッセイ調に語られていますが、読み終わって備忘録として残しておきたいと思ったのは、次の3つでした。
1.最善手を指そうとするのではなく、悪手を指さないようにする
将棋で次に何をするかを考える時、そのほとんどは悪手であり、数少ない良い手の中から次の一手を選ぶ。人生も同じで、良い手の中のどれを選ぶかより、たく さんある悪い手を選ばないことの方が圧倒的に重要です。つまりベストなことを常にすることを狙って完璧主義者にならなくても、悪いことをしないでベターを目指していれば良い結果が出るということです。ベストの選択とは実は事後的にしかわからないことが多いのです。
2.流れが良い時は、動かずその波を長く捉える
うまくいっている時はその状態を長く続けるために変化しないようにする。逆にうまくいかない時は、その悪い流れを断ち切るように別のことをしたり、気分転 換や遊びに行くといったことをしながら、形勢逆転の方法をじっくり考える。将棋で言えば、形勢不利な時は何とかしのぎながら、相手がミスをするのをジッと待って、そこで一気に逆転を狙うのだそうです。最悪なのは、悪手に悪手を重ねて悪い流れが続くことです。だから、失敗をしたら慌てて取り返そうと焦るのではなく、一呼吸置いて形勢を変えるチャンスをジッと待つ方が賢明です。
3.「貸し方」に回る生き方をする
自分を犠牲にして相手のことを考える生き方によって「貸し方」に回ることができます。例えば、お金に困っている仲間がいたら資金を援助する、文句を言う人がいたらそれを受け入れる。面倒なことがあっても敢えて自ら引き受ける。そんな行動を通じて「貸し方」が増えていけば、損をするのではなく、いつかそれが回り回って自分に返ってくる。そんな生き方を目指した方が人生は気持ち良くさわやかで、豊かになれる。負けるが勝ちということです。
将棋と人生は意思決定の積み重ねという点でとても似ています。だから、将棋の世界で考え抜いた人だけに見えてくる勝負に勝つための心構えというものは、多くの人の人生にも通用するのです。何度も読み返したくなる味わい深い一冊です。
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編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2016年12月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。