イタリアショックは回避か、市場の焦点は米利上げに

久保田 博幸

12月4日のオーストリアの大統領選ではリベラル系・緑の党のベレン元党首が勝利した。これは5月の決選投票で開票作業の不備が明らかになったことでのやり直し選挙であったが、トランプ効果により、EU離脱派でもある極右・自由党候補のホーファ氏が勝利する可能性も指摘されていた。しかし、ひとまず極右の 流れが欧州にも広まることは避けられた格好となった。

そしてもうひとつ注目された同日のイタリアの憲法改正の是非を問う国民投票では、予想されていたように憲法改正が否決された、この結果を受けてレンツィ首相は辞任の意向を表明した。

米大統領選挙でのトランプ氏の勝利によって、イタリアでもレンツィ政権の打倒を目指すポピュリストの運動は勢いを増しており、2017年の早い時期に総選挙実施となる可能性も指摘されていた。しかし、この総選挙については回避されるのではとの見方となっているようである。

来年4月または5月にはフランスで大統領選挙が実施される。こちらも極右政党「国民戦線」のルペン党首が有力候補となっている。すでにオランド大統領は大統領選挙への立候補を断念する考えを表明している。ドイツも来年9月に総選挙を控えている。

米大統領選挙の結果がひとつのきっかけとなり、欧米の長期金利やドルは上昇し、米国株式市場もダウ平均などが過去最高値を更新した。これはトランプ相場やトランプラリーと呼ばれたが、この政治の方の流れが欧州に波及するとなれば、市場はこれをリスク要因とみなすことになる。

トランプラリーにより米長期金利は上昇し12月1日には2.45%に上昇した。しかし、欧州リスクが意識されて2日には2.38%に低下した。ドイツの長期金利も0.28%と1日の0.36%から低下し、英国の長期金利も1.38%と前日の1.49%から大きく低下した。イタリアの長期金利も2%を割り込み1.90%に低下した。このあたりはいわゆるリスク回避の動きとも見える。

イタリアの政治空白の可能性によるイタリアの銀行への懸念もある。レンツィ首相が辞任するなると、資金調達を巡る懸念により、同国内の銀行に破綻のリスクが生じるとされる。

外為市場ではユーロがドルや円に対して売られたが、ユーロドルは節目とされている1.05ドルを割り込むことはなく、市場はいまのところ比較的冷静となっている。イタリアのレンツィ首相の辞任はある程度想定されていたとみられ、問題はこれがイタリアの銀行にどのような影響を与えることになるのか。そしてイタリアでもポピュリストの運動は勢いを増すことになるのか、それがフランスなどに波及してユーロ崩壊のリスクが高まるのかが今後の焦点となる。

ただし、オーストリアの大統領選でリベラル系のベレン元党首が勝利した背景には、極右の流れに対して国民が危機感を抱いているためとも指摘されており、この流れがユーロ圏で強まるのかどうかは疑問もある。あくまでリスク要因のひとつとして認識しておく必要がある。

今回のイタリア首相の辞任によっていわゆるトランプラリーの流れが変わるとも思いづらい。レンツィ首相が現実に辞任を表明したことを受けての5日の欧州の株式市場は上昇しており、外為市場ではユーロも買い戻された。イタリアの国債も売られたが、ドイツや英国、米国の国債も下落していたことで、リスク回避の動きとはならなかったと言える。

2日に発表された11月の米雇用統計で非農業雇用者数は17.8万人と予想を少し下回り、10月分は下方修正されたが、失業率は4.6%と0.3ポイン ト低下した。今後は市場の視線は欧州から12月13、14日のFOMCに移ってくることも予想されている。利上げはほぼ確実視されており、焦点は来年の利上げペースともなっている。今後、米長期金利はまだ上昇してくる可能性はある。ドル円についても115円という節目も意識されて押し戻された格好となっているが、ここでピークアウトしたようにも思えない。

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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年12月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。