AIに国会答弁はできるか

山田 肇

日本経済新聞に「AIが国会答弁下書き 経産省が実証実験」という記事が掲載された。AIに過去5年分の国会議事録を全て読み込ませたうえで、新しい質問に対する答弁の原稿を作るという。答弁原稿の作成は官僚にとって大きな負担なので、これを減らし「働き方改革」につなげるねらいもあるそうだ。

果たしてAIに国会答弁はできるだろうか。

野村総合研究所はちょうど一年前に「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」と報道発表をしている。野村総合研究所は「創造性、協調性が必要な業務や、非定型な業務は、将来においても人が担う。」としたうえで、「必ずしも特別の知識・スキルが求められない職業に加え、データの分析や秩序的・体系的操作が求められる職業については、人工知能等で代替できる可能性が高い」と書いている。

国会答弁には「特別の知識・スキルが求められない」とは思わないが、「秩序的・体系的」なのは間違いない。集団的自衛権で国会はもめたが、民進党の主張は「安倍総理が中曽根総理の答弁を勝手に変えた。」だった。国会議事録検索システムには過去との整合性を問う質疑がたくさん掲載されている。たとえば、2016年5月10日の参議院厚生労働委員会で、石橋通宏議員は、「これはびっくり答弁ですね、大臣。これまで大臣が言われていた答弁と今すり替えられましたね。」「これ、その後の、大臣、答弁変更されたんですね。これまでの答弁はうそだったということですか。いや、これまでの、大臣、答弁を精査してください。ここにありますよ、過去の答弁。全然違いますよ。」などと発言している。

それほど「秩序と体系」が重要なのだ。過去の答弁を踏まえたうえで、少しずつ、少しずつ舵を切らないと野党から批判されてしまう。

大臣個々が異なる意見を表明すれば「閣内不一致」と叩かれる。就任前の発言と政府方針との矛盾を、新任の大臣に質問するのも見慣れた光景で、「閣内不一致」と声を上げようと野党は手ぐすね引いている。

決まりきった質問に決まりきった答弁が大半であれば、実証実験は成功する可能性がある。しかし、それは国会議員、特に野党が仕事をしていないと証明するに近いことだ。

今求められるのは時代の変化を見据えた政治の革新だが、それには「秩序と体系」の壁を破らなければならない。これを機会に、国会を真の論戦の場に変えてほしいとつくづく思う。たとえば、委員会の場にパソコンやタブレットを持ち込み情報や映像をスクリーンに表示して質問するといったダイナミックな質疑であれば、「非定型」性は高まり「創造性」も求められるようになるだろう。