日本経済新聞(12月10日)に「HIS、安い旅は今や守勢 今期最高益でも本業伸び悩み」という記事が出ていた。格安航空券で旅行業界に価格破壊をもたらしたHISだが、ネット旅行会社に取って代わられ苦しんでいるという。
経済産業省は毎年「電子商取引実態調査」を公表している。それによれば、2015年における旅行サービスのネット取引規模は2兆8850億円である。2010年には宿泊・旅行業と飲食業の合計で1兆1215億円だったから、この五年間で旅行サービスのネット取引はおよそ3倍に膨らみ、それだけ店頭取引規模は縮小した。航空券の予約が半分以上ネット経由になり、ネット専業の旅行代理店が台頭したのが急拡大の理由と、上記調査は説明している。
航空会社のサイトで格安航空券が直接予約できれば、わざわざHISに行く必要はない。楽天トラベルで海外ホテルを検索すると真っ先に「お客さまの声」が出てくるが、HISサイトでは「口コミ」は奥のほうにあるから、口コミを多用したい消費者は楽天トラベルを好むだろう。
2015年「電子商取引市場調査」はスマートフォンの利用について言及している。楽天市場では流通総額に占めるモバイル経由の比率は既に50%を超え、アパレルのスタートトゥディではスマートフォン経由の売上が2015年10月~12月期で66%だそうだ。スマートフォン向けサービスを、利用者満足を意識して提供することは、HISにとって急務である。
ネット取引しやすい商品と、しにくい商品がある。品質に不安があれば生鮮食料品をネットで購入しようとは思わない。身に着けて似合うかチェックしたい宝飾品もそぐわない。一方、ホテルや飛行機であれば、どこから予約しても大差はない。だから、旅行サービスはもともとネット化しやすいのだ。
同様の危機は他の企業にも起きる恐れがある。いつでもどこでもネットにつながるモバイルイノベーションが深化しているからだ。HISの苦境は他の企業への警鐘である。