朝日新聞の空論「軍事研究」について

山田 肇

朝日新聞が12月15日付で「大学の知、軍事研究に流入 日本学術会議、線引き議論中」という記事を掲載した。冒頭は次のように始まる。

(学術研究と軍事研究)は戦後、研究費の出どころを区別するなどして「すみ分け」をしてきた。だが、垣根は10年ほど前から崩れ始め、大学の「知」は様々な経路で軍事研究に流れ込みつつある。

壁が崩れた事例として紹介する「革新的構造材料」は、「戦略的イノベーション創造プログラム」として進められている国プロである。航空機産業の育成・拡大を掲げ、強く、軽く、熱に耐える革新的材料の開発と、航空機実機への適用を目指している。

朝日新聞は壁が崩れたというが、商用機と軍用機で材料を分けられるだろうか。航空自衛隊F-2戦闘機には炭素繊維が使用されているが、同様の材料はボーイング787でも使用されている。このことは航空機国際共同開発促進基金の解説に詳しい。「革新的構造材料」で壁が崩れたわけではなく、もともと壁はなかったのである。

位置情報サービスで広く利用されているGPSは軍事技術が源である。携帯電話にも戦地における通信技術が流用された。一方には、ビデオカメラのように民生品が軍事利用された事例もある。朝日新聞は学術研究と軍事研究は二分されるべきと考えているが、現実にそれは可能なのか。

研究開発が比較的初期の段階にあれば、将来、民生か軍事利用されるかわからない。その後、成果の一部は軍用として具体的な応用を目指す。さらにその先、もともとは軍事技術だったものが民間で活用される場合もあり、民生と見なされていたものが軍事に使用されるケースもある。段階に応じて民生と軍事に姿を変えるのが現実であり、それに二分論を適用するのは無理である。

「戦略的イノベーション創造プログラム」には内閣府が予算を付けているが、それが防衛省の相乗りに道を開いた、と朝日新聞は批判している。それでは、研究開発予算は省ごとに与え、重複投資されてもよいのだろうか。「軍事研究はダメ」で思考停止するのはよくないことだ。