企業組織のなかで、成長への確信は、一方で、過去における成長の歴史的事実によってしか形成され得ず、他方で、成功体験へのこだわりが変革の阻害要因になる、ここの矛盾こそが企業組織論の核心になるわけである。
そのため、個別具体的な成功体験そのものを問題とするのではなく、その成功が生み出されてきた環境や経路の分析に向かい、成功要因と阻害要因を抽出することで、次の新たな成功の再現の可能性を高めるような努力に向かってきたのであった。
しかし、こうした分析をいかに精緻に展開しても、程度の差こそあれ、本質的な意味においては、後講釈の域を出ないのは間違いない。これは、芸術の創造の現場をいかに解析しても芸術は創造され得ないのと、同じことである。
創造においては、創造する人と、創造の行われる場しかない。創造の場を環境といい換えたとき、人と環境の結合が創造と成長の担い手としての企業になるということなのだ。
国家においては、文化創造の場は国境を超えにくい、超えにくいというよりも、超え得ない。しかし、企業においては、環境は、超時間的に、超空間的に、構成し得る。簡単な例だが、グローバル企業であれば、インドの研究現場と、フランスの営業現場と、ケニヤの製造現場とを同時につなぐことは、技術的に少しも難しくはない。また、創業来の顧客基盤にかかわる全情報も利用できる。ここにこそ、企業の真価があるのだ。
創造の芽は、個人のなかにしか生まれない。その芽が育つかどうかは、環境の問題である。育つように環境が整えられていれば、創造の芽が変革へと展開していく。さて、ここでの根本的な問題は、主役は誰か、あるいは、創造の起点はどこか、個人なのか環境なのかということである。
環境は企業が個人に与えるものか、それとも創造の原点である個人が自由に利用できるものか。企業が主役となり、選ばれた個人に対して、環境を与えて創造活動をさせるのか、そうではなくて、個人が主役となり、個人が自由に使える企業内環境のなかで、創造活動を主体的に行うのか。
この判断の要点は、環境には二つの層があることだ、創造の芽吹く環境と、創造の芽が育つ環境と。創造の芽吹く環境は、個人が自由に使える開かれた環境でなくてはならない。そこでは、個人が主役だ。他方、創造の芽が育つ環境は、企業が計画的に準備した環境でなくてはならない。そこでは、企業戦略が主役なのだ。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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