財政こそ終末医療を受けるべきだ
2017年度予算案が決まりました。長寿化とともに社会保障費(医療、年金、介護)は増え続け32兆円、歳出の33%を超え、最大の項目になっています。「財政赤字なのに防衛予算は過去最大の5兆円強」、「公共事業は災害対策などで減らず6兆円弱」などに批判が集中します。集中すべきなのは社会保障制度の改革であり、そこを避けて、他の分野をいくら批判したり、いじくったりしても、微々たる効果しか出てきません。
100歳まで生きても不思議ではなくなりました。昔の感覚でいえば、人は不老不死に近づく一方、その費用負担を求められる財政は病状が悪化し、終末医療を必要とする状態になりました。さらに団塊の世代が高齢者グループに入ってきますから、社会保障費は今後も増え続け、財政病は重篤になります。
お年寄りは体があちこち痛んでいますから、医療費はかかります。一人当たりの医療費は65-74歳が55万円、75歳以上が90万円と倍近く、軽自動車なら毎年1台は買えるでしょうか。医療費のかかる高齢者が自動的にまだまだ増えていくから大変です。寿命は伸びる、高齢者は増える、高額医療は広がるの3点セットです。
医療費が1人7400万円の事例も
高額の医薬品の開発、医療技術の進歩という面からも、医療費は信じられない金額になることも多くなりました。日経新聞(19日)の一面記事で、「80歳の男性、3年半の医療費が7400万円、それに対する自己負担は190万円」と、あっと驚く事例が紹介されていました。一軒家が買えますよ。
医療保険が医療費を支払いますから、病院も医師も患者本人も、当然、医薬品メーカーも心配することはありません。高額になればなるほど儲かりますから、患者に「やめておいたら」などと、まず助言しません。黙っているのです。
一家の働き盛りの大黒柱が病に倒れたら、救いの手を伸ばすべきでしょう。一方、「社会や家庭に対する役割を果たした。体力の限界に近づいたら、自分の場合は必要最小限の医療でいい」という人が私の周辺でも増えています。「胃ろうはしない。延命のための点滴はしない」、「薬の種類もできるだけ減らす」という声も大きくなりました。政治はそういう声に耳を傾け、長寿社会の財政構造を改善していくべきでしょう。
日本人の平均寿命は男81歳、女87歳で、世界で4位と2位です。世界トップはアイスランドで、男女とも日本と大差はありません。大差があるのは、長寿社会を支える財政構造です。アイスランドの付加価値税(消費税)は24%(標準税率)と世界で最高レベルであるのに対し、日本は8%で最下位グループです。安倍政権が選挙と景気対策を重視し、10%への引き上げを2度にわたり先送りした結果でもあります。
低負担で最高の長寿国のからくり
社会保障費は保険料だけで賄えないため、税収で財源を確保しておく必要があります。アイスランドの税収はGDPの30%相当で、これも世界でトップクラスです。日本はどうでしょうか。税収はGDPの17%、世界32位、主要国の中では最も低いレベルで、アイスランドの半分です。生活実感は「えっ、そんなはずはない。税金が重く暮らしは苦しいのに」でしょう。でも国際統計ではそうなのです。低負担で最高レベルの長寿国になっているのは、からくりがあります。
巨額の福祉財源は、国債(政府の借金)と社会保険料収入です。ざっと半々です。一般税収もありますか。来年度予算では、社会保障費は32兆円です。一方、国債発行額は34兆円で、発行残高は積り積もってGDP比は230%を超え、世界最悪です。第二次世界大戦当時、戦費調達で財政は無節操に膨張し、この比率は200%を超えました。戦時でもないのに今、財政が戦時下以上に悪いのは、財源不足対策と社会保障給付の合理化から政治が逃げ回っていたからです。
さすがに来年度予算案では、所得の多い高齢者の自己負担を増やす、薬価の見直し(引下げ)などに取り組みます。基本の基本は不必な医療の抑制、世界最低の消費税の引き上げ、年金支給開始年齢の引き上げなどでしょう。安倍さん、「まだ大丈夫」などと、逃げてはいけません。社会保障制度がこれ以上、痛んだら、本当に社会保障を必要としている人から不幸がめぐってきます。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年12月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。