2016年大晦日の日、台所にいる「ボス」からの次の指令を待ちながら『セブン・シスターズ』(A.サンプソン、日本経済新聞社、昭和51年1月10日)を読みつづけている。「不死身の国際石油資本」というサブタイトルがついている。
40年前に出版されて間もないころに読んだ記憶があるが、初めて読むような興奮を覚えながらページをめくっている。初読のころは、香港大学で北京語を学び、台北支店で「お礼奉公」と称する実務研修を受け、2年間の「修業生」生活から本社原油部に帰任したばかりだった。原油のことなぞほとんど知らず、やる気だけが空回りしている20代最後の年だったなぁ。
本書は、1975年3月、アルジェ郊外の「諸国民の宮殿」に「アブダビ首長」、「小柄なエクアドル大統領のララ将軍」、「クウエート首長」、「リビア革命軍事政権のジャルード首相」、「ベネズエラ大統領のカルロス・アンドレス・ペレス」、「イラクの実力者サダム・フセイン」、「上品そのものといっていいイラン国王」などが集まり、「主催国の元首ファリ・ブーメジエン(革命評議会議長)が例によって得意のマラソン演説」を行っている「これこそまさに石油輸出国機構「OPEC」の初の頂上会談」との記述から始まっている。
そして第二章を「ロックフェラーの遺産」としているように、1859年のドレーク「大佐」による商業生産開始以降の石油の歴史そのものも生き生きと描いており、ダニエル・ヤーギンの『石油の世紀』と合わせて読めば、「原油」のことはほぼ分かるのではないかと思える。
その第二章の冒頭に次のような記述がある。
「石油産業固有の問題の多くは、100年前にペンシルバニアでこの産業が突如として誕生した当初の数年間にもうはっきりとしていた。すなわち、供給不足と供給過剰が交互に来ること、価格の変動幅がきわめて大きいこと、原油供給者と販売業者の争い、石油産業と輸送業の相互依存関係などであり、そして何よりも大きな問題はーーだれがこの産業を支配するか、ということである。」
この指摘は、40年後の今もなお有効だろう。
『セブンシスターズ』は、「セブンシスターズ(七人の魔女)」と称された大手国際石油会社が如何にして「支配者」たりえたか、そしてOPECが如何にして「支配権」を奪い取ったのかを、論理的に、説得力のある文章で記述しているので、未読の弊ブログの読者にはぜひ一度は読んでいただきたい本だ。
さて2016年、弊ブログは「#124 サウジ・イラン断交でも一時的に20ドル台に突入か?」(1月7日)で始まり、「#297 サウジ王族は耐乏時代にも浪費を続けている」(12月28日)で終えている。NYMEXのWTI原油終値は36.16ドルで始まり、1月20日に最初の底値26.55ドルをつけ、一度は30ドル台に戻るも2月11日に二度目の底値26.21ドルをつけ、20ドル割れもありうると警鐘を鳴らす評者も現れるほどだった。そして最終取引日の昨12月30日、底値のほぼ2倍の53.72ドルで引けた。
2015年末に『フォーサイト』に寄稿した原稿は「2016年原油価格:『サウジの国家体制不安』を注視せよ」と題され、1月4日に公開されているが、いま読み返してみても、けっして的はずれではない気がする。
特に次の文章など、まるで最近書いたもののようだ。
「『OPECはカルテル機能を喪失した』と評する論者も多いが、筆者は『隠しているだけ』と見る。マーケットシェアーを失わずに、カルテルとして機能しうるタイミングを見計らっている、と判断している。リバランス(需給バランス正常化)が見えてきた時に『減産合意』を発表すれば、間違いなく市場に大きな影響を与えられる。『カルテル機能』を発揮できる。筆者は、そのタイミングを『2016年末』と見るが、OPECは、いやOPECの盟主サウジは、いつ、そのタイミングが来ると読んでいるのだろうか?」
そして結びの次の文章も「いいね」を押したくなる。
「今まで述べた諸要素を総合的に考えると、乱高下はあるものの2016年も秋口までは低位で推移し、年末になって初めてリバランスが視野に入って来て、上昇基調に転ずるのではなかろうか」
2016年クリスマス前に『フォーサイト』に寄稿した2017年の原油価格見通しに関する原稿は、1月5日に公開されるそうだ。『原油暴落の謎を解く』(文春新書、2016年6月20日)で勉強の成果を誇るように「価格予想」をしてしまったため、来年の見通しでも「数字」をあげている。いいのかな?
これ以上は「ネタばれ」になるので触れられないが、編集部はどのようなタイトルをつけるのだろうか。興味津々だ。
弊ブログの読者のみなさんは、ぜひ「内容」にも目を通してくださいね。
それでは、良いお年を!
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年12月31日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。