来年度の国債発行計画をみると、個人向け国債については今年度の発行額が増加したことで、来年度は約3兆円の発行予定となっている。今年度当初に比べ1兆円の増加となる。今年度の個人向け国債の発行額は12月現在で2.4兆円程度となっており、3月までに発行される今年度分は三次補正後に3兆1500億円と見積もっている。ここにきての発行額の推移からみて3か月で7千億円程度の発行額は可能との見積もりであろう。
しかし、この発行額が果たして維持されるのか、それとも予想以上に発行されるのか、それは日銀の金融政策次第という面もある。
なぜ今年度の個人向け国債発行額が当初の見込みから上振れたのか。その大きな要因として、0.05%という最低保証利回りがある。個人向け国債には0.05%という最低保証利回りがついており、この0.05%がいつの間にか銀行などの預金金利を上回ったことで、利回りとして魅力化したのである。
金融機関にとっても個人向け国債の販売はそこそこの収益源となる。財務省は12月6日に個人向け国債の募集発行事務取扱手数料の見直しを行い、来年3月募集(4月発行)分より引き下げられるものの、固定3年で額面100円あたり20銭(これまで40銭)、固定5年で額面100円あたり30銭(これまで50銭)、変動10年で額面100円あたり40銭(これまで50銭)となっている。もちろんこれは購入者負担ではなく、販売額に応じて金融機関に財務省が支払う手数料である。
手数料が引き下げられても10年変動では40銭ある。発行額も一番多いのは10年変動である。そしてこの10年変動は通常の10年国債の利回りが上昇すると利率も引き上げられる仕組みとなっている。
10年変動を購入した場合には今後の長期金利の動向を注意しなくてはならないが、それを押さえつけているのが日銀の長短金利操作、つまりイールドカーブコントロールである。しかし、ここにきてのトランプ相場により米国の長期金利は上昇し、日本の国債利回りもわずかではあるが上昇している。それでも10年債利回りを日銀はゼロ%近辺に抑えるとしている。日銀による長期金利の目標値の引き上げがあるかどうかが、今後個人向け国債の10年変動の利率が引き上げられるかどうかの焦点ともなる(最低の0.05%は保証)。
短期金利についてもいずれはマイナス金利が解除されることも予想され、そうなると固定3年・5年の利率が最低の0.05%から引き上げられる可能性もなくはないが、これもやはり日銀次第となる。もちろんそうなると銀行預金金利も上昇することが予想されるが、利率としては国債の方が高めに設置される可能性が高い。
日銀はいまのところ利上げなどもってのほか、といった対応をしている。それでも海外金利や為替、株価、原油価格、物価などの動向次第では、長短金利の目標値を引き上げてくる可能性も絶対ないとは言い切れない。しかしいまのところ、いまの日銀のスタンスでは、その確率は極めて低いことも確かである。それでも日銀の変わり身の早さをみても(補完措置→マイナス金利→長期金利)、ないとは言えないような気もしなくもない。本年もよろしくお願いいたします。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年1月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。