政府がマイナンバーカードに健康保険証機能を持たせる方針と、読売新聞が伝えている。厚生労働省が、2017年度当初予算案にシステム構築の関連費用などとして243億円を計上したという。記事にもあるように、マイナンバーカードの活用は患者本人の確認を迅速化する。問題は、カード利用に対する国民の心の壁を崩せるかにある。
情報通信政策フォーラムでは、12月16日に、マイナンバーカードを利用する「マイキープラットフォーム」についてセミナーを開いた。当日の内容はICPFサイトに掲載してあるので閲覧してほしいが、議論の中心は、マイナンバーカードを市中で利用することへの心理的壁をどのように突破するかであった。マイナンバーはいたずらに公開してはならない、マイナンバーを盗用したら罰せられるといった側面での広報は行き渡っている。マイナンバーカードを図書館カードや地域商店街のポイントカードに利用しようというのが「マイキープラットフォーム」であるが、マイナンバー秘密主義が徹底している中で人々は動くのか、というのが聴衆の疑問であった。
病院でマイナンバーカードを専用端末にかざせば、「マイキープラットフォーム」から保険証番号が戻ってくるという仕組みは簡単にできる。保険証番号としてマイナンバーを利用する必要はないし、このプロセスではマイナンバー自体が参照されない。それゆえ、保険証機能を持たせようという計画は合理的なのだが、マイナンバー秘密主義者が反対を唱えるのは目に見えている。
マイナンバー制度では、マイナンバーにつながる個人情報は厳重に管理されている。具体的には、利用権限を与えられた職員が、認証を受けたうえで専用端末から閲覧しないと、マイナンバーにつながる個人情報は取得できないようになっている。しかも、これらの個人情報はマイナンバーそのものではなく、行政分野ごとに異なる番号で蓄積されている。それゆえ、国民一人ひとりがマイナンバーを秘密にする必要は、元々ないのである。
それでもマイナンバー秘密主義がはびこるのはなぜか。それは、主観的な「安心」と客観的な「安全」をわざと混ぜて国民の不安を煽っているからだ。「安心」して通行していたが実は「危険」で中央道のトンネルは崩壊した。「安全」が徹底しているジェットコースターも「不安」を感じる。「安全」と「安心」は別物なのに、マイナンバー秘密主義者は心理的な隙間を突いて不安を煽る。政府もそれにつれられて「安全・安心」を一単語のように扱う間違いを犯している。
電子行政で先行するエストニアの政府CIOは、講演のたびに、自分のエストニア版マイナンバーカードを皆に見せる。マイナンバーが性別や生年月日などから構成されていることも説明する。エストニアではマイナンバーは秘密ではない。マイナンバーは秘密ではないという方向にわが国も動くべきだ。マイナンバー秘密主義者の壁を突破しない限り、国民の心の壁も消えず、保険証機能を持たせるという計画も中途半端に終わる恐れがある。