韓国政府の統治能力が問われる

長谷川 良

多分、多くの日本国民は予想していたと思うが、日本と韓国両国が2015年12月28日、慰安婦問題で合意した内容が揺れ出している。それも十分想定されたことだが、日本側の義務履行が滞っているからではなく、韓国国内の事情からだ。

ソウル外交部(外務省に相当)で日本の岸田文雄外相と韓国の尹炳世外相が慰安婦問題で協議し、「日韓両政府は、慰安婦問題について不可逆的に解決することを確認するとともに、互いに非難することを控えることで一致した。この問題が最終的、不可逆的に解決することを確認する」と表明したことはまだ記憶に新しい。

その際、ソウルの日本大使館前に設置されている少女像の撤去について合意文書では明記されていないが、「お互いに非難することを控える」といった文面から当然帰結される結論と考えられた。しかし、同合意1年が経過したが、少女像は撤去されていない。その一方、日本側は日韓合意に基づき10億円を韓国側に既に振り込んでいる。

韓国のメディア報道によれば、国内で「両国合意を破棄すべきだ」という声が高まっているという。そして昨年末、韓国・釜山の日本総領事館前に慰安婦被害者を象徴する少女像が設置されたのだ。

韓国聯合ニュース日本語電子版(12月30日)によると、「昨年12月28日に慰安婦合意が交わされてからも少女像は韓国各地で設置され、すでに36体が存在するが、特にソウルの日本大使館前の少女像は慰安婦問題で日本を批判する市民運動の象徴的な存在になっている。今回も少女像が釜山の日本総領事館前に設置され、日本側は敏感に反応するとみられる」という解説記事を配信したが、釜山の少女像設置が日韓両国間の合意に反するという視点は恣意的か言及されていない。

韓国外交部の趙俊赫スポークスマンは3日、「外国公館の保護と関連した国際慣行という側面からも慎重に判断する必要がある」(聯合ニュース)と強調しただけで、日韓合意に反するとは述べていない。ウィーン条約を持ち出して、少女像の設置はそれに反する恐れがあると主張しただけだ。

韓国外交部報道官の指摘は間違っていないが、肝心のポイントをボカしている。少女像の撤去問題とウィーン条約は基本的には異質の問題だ。ソウルの駐日本大使館前に少女像が設置され、そして今回釜山の日本総領事部前にも設置されたことはウィーン条約に明らかに違反しているが、それ以上に2015年12月に日本と韓国両国が合意した慰安婦問題の最終的合意内容に違反しているという点こそが問題だ。

ウィーン条約は国際条約であり、加盟国はその遵守の義務があることは明確だ。一方、日韓両国政府の慰安婦問題の合意は2カ国間の合意だ。少女像設置問題はウィーン条約の違犯かどうかを問う問題ではない。それはあくまで付属テーマだ。
日本側は慰安婦問題をめぐる日韓合意に基づき10億円を韓国側に支払った。それに対し、韓国側は慰安婦問題が最終的、不可逆的に解決するために努力しなければならない番だ。

韓国政府は日韓合意直後、駐ソウル日本大使館前の「少女像」の撤去問題では「これは明確には合意事項とみることはできず、日本側の憂慮の提起について韓国側が承知したことであり、交渉の対象ややりとりをしたものではない」(中央日報)と説明するなど、少女像撤去問題では常に詭弁を弄してきた経緯がある。

韓国政府はウィーン条約を持ち出し、国民に理解を求めるのではなく、「少女像設置は日韓合意の精神に反するから、即撤去しなければならない。日韓の合意内容を遵守できなければ、国際社会から嘲笑されてしまうだけだ」と指摘し、国民を説得しなければならないのだ。韓国政府は統治能力が問われている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年1月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。