「保守主義の民衆化」というプロジェクト

渡瀬 裕哉

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池田先生と神谷さんからのご指摘を受けて

筆者が寄稿させて頂いた記事に、ハイエクの『隷属への道』のAmazonキャプチャーを貼っていたことから、池田先生神谷さんから様々なポピュリズムと保守主義の相違に関するご指摘を頂きました。少し言葉足らずであったかと反省しております。

結論から申し上げますと、お二人の主張は理解している上で、あえてハイエクの『隷属への道』を貼らして頂いた次第です。しかし、筆者が申し上げたかった趣旨を踏まえれば、ルイス・ハーツの『アメリカ自由主義の伝統』を紹介したほうが良かったと思っております。

筆者もポピュリズム(≒民主主義)と保守主義が伝統的に対立概念にあることは理解していますが、ポピュリズムの台頭は避けがたい情勢情勢であることに鑑み、保守主義の思想をポピュリズムに対置させるのみでは手詰まりに陥るものと考えております。

ポピュリズムと保守主義を対置してポピュリズムの暴走による危険性を指摘することは有意義ですが、ポピュリズムの暴走を止めるためにはそれは不十分だと想定しているからです。(まして、今回失敗したリベラルなエスタブリッシュメントにそれを期待することは余計に出来ませんし)

保守主義の民衆化という困難なプロジェクトの必要性

そこで、筆者が重要視していることは、保守主義の思想を民衆に内面化する、ということです。

現代社会において、私たちは今更民主主義を辞めるわけにはいきませんし、その中で極度に肥大化した政府を立法府がコントロール可能なレベルまでダウンサイジングする必要があります。

しかし、社民主義の浸透によって立法府は行政府に対する陳情機関と化しており、巨大な政府を監視する役割などほとんどないどころか、立法府議員が行政府に事実上コントロールされている始末です。そして、民衆は人生の自己決定権を喪失した上に、大きな政府が経済成長を阻害することで更なる不満が募らせることになります。

したがって、今後も更にポピュリズムは拡大することは避けられず、巷で問題の解決策として主張される「再配分の強化」というバラマキ政策が実行されれば状況は更に悪化するでしょう。なぜなら、ポピュリズム台頭の本当の原因である上記の問題は何も解決しないからです。

これらの現状を変えていくためには、民主主義の性質自体を変えていくしかありません。つまり、人々の頭の中の社会主義+民主主義という現在の公式を保守主義+民主主義の新しい公式に変えるということです。

米国における保守主義の民衆化の動向について

米国においても同様の問題は戦後早くから認識されており、民主主義の中で保守主義者が多数を取ることを目的として、保守主義者らによって保守主義の理念を共有するグラスルーツを育てる試みが実践されてきました。

これらの運動は社会的保守と経済的保守の考え方から成り立っており、フレデリック・バスティア、ウィリアム・F・バックリー・ジュニア、F.A.ハイエクの思想などを共有したものとして展開されています。そして、それらの思想を広めるだけではなく、具体的に民主主義の手続きの一つである選挙で勝利するための仕組みも整備されています。

筆者が米国の政治状況について基本的に楽観視している理由は上記の仕組みの存在を認識しているからです。そして、それらの運動に裏付けられた政治勢力が共和党保守派であり、今回の閣僚人事も実質的に共和党保守派によって大半がジャックされた状態となっています。所謂オルト・ライトはほとんど存在せず、トランプ氏関連の人々は閣僚人事のほんの一部に過ぎません。(他の国の問題は深刻かもしれませんが・・・)

これは極めて米国における特殊な政治現象かもしれないのですが、私たちが民主主義が浸透した現代社会で採用するべきソリューションの1つとして参考にすべきものであり、民主主義やポピュリズムの内容を変質化させることが重要だということです。

もはやポピュリズムの台頭(まして民主主義体制)は前提であり、民衆の在り方自体を見直すために何ができるのか、を考えていくべきだと思われます。

そのため、冒頭に指摘を受けたように、「なぜポピュリズムの話しているのにハイエクを貼ってるんだ、渡瀬は本当に分かっているのか」という池田先生が疑問を持たれるのは当然ですし、神谷さんが民主主義と保守主義を対比されるのは当然なのですが、上記の通りの趣旨で多くの人にハイエク読んでほしいという文脈で書籍を紹介したということでご容赦頂ければ幸いです。

*ちなみに、筆者は理念と政策なき単なるポピュリズムは大半の行為が行政機関を追認するだけ(日本の民主党政権のように)のものになると思っており、リベラルなエスタブリッシュメントと大差ない結果になるものと考えております。

本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などは[email protected]までお願いします。

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