「直虎」成功のカギは“黒昇太”義元が握ってる

新田 哲史

おんな城主 直虎

年も明け、ようやく「真田ロス」が癒えてきたところで、新しい大河ドラマ「おんな城主  直虎」がいよいよ始まる。しかし、主人公の知名度は低い。過去の大河でも一昨年の「花燃ゆ」を始め、題材がマイナーだと視聴率が振るわないことも多く、そのあたりの懸念もささやかれている。しかも最近になって主人公の直虎が「実は男だった」騒動まで勃発した。

こういう時は、少しでも話題になりそうな切り口を探したいところだが、やはり印象的なキャラクターが物語の序盤でいるかどうか。大河は主人公の一代記を描くだけに、主人公が元服や成人するまで、序盤は子役が出番になることも少なくなく、視聴者を初っ端から飽きさせない人物が必要だ。

昨年の「真田丸」では、物語前半の主役は主人公、真田信繁の父、昌幸だった。信繁の活躍はかなり後になるということは史実からわかっていたので、番組開始前に、「「真田丸」浮沈の鍵は草刈さんが握っている」と予測をしたら、期待以上の存在感を発揮。草刈さんは、紅白の審査員として1年を締めくくるほど人気が再燃した。

そして、今回、「おんな城主  直虎」で目を引くと私が注目しているのは、今川義元だ。それも演じるのが、普段は温和なキャラクターである落語家の春風亭昇太師匠というのだから、面白い。

愚将ではない「プレ桶狭間」の活躍

今川義元といえば、「桶狭間で油断しているところを信長にヤラれちゃった公家かぶれの愚将」というイメージが強いだろう。しかし、それは悲運の最期を遂げたためであって、生い立ちは戦国大名らしくタフそのものだ。史実では、異母兄との家督争いを制し、当主になってからも、東に北条、北に武田、西に織田という厄介な連中と国境を接しながら、着実に勢力を伸ばしていった。東海道の覇者として、のちに徳川家康の異名になる「海道一の弓取り」は、そもそも義元が元祖だったくらい、政治・行政の手腕はそれなりに結果を出している。

義元は過去の大河で何度も登場しているが、「桶狭間」の一回ぽっきりではなく、一定期間、重要な役回りとして登場したことも踏まえると、私が過去30年余り、リアルタイムで観てきた作品では、この3人の名優が演じてきた義元が印象深い(以下、敬称略)。

成田三樹夫「徳川家康」(1983年)

成田三樹夫

NHK大河ドラマ「徳川家康」より

中村勘九郎(後の勘三郎)「武田信玄」(1988年)

中村勘三郎

NHK大河ドラマ「武田信玄」より

谷原章介「風林火山」(2007年)

谷原章介

NHK大河ドラマ「風林火山」より

歌舞伎役者らしい雅さを漂わせた勘三郎、風貌・言動ともにクールさを貫いた谷原、それぞれ見事であったが、「ヒール」としての存在感が実に光っていたのが成田だ。もう、いまの若い世代は知らないだろうが、50代以上の方は、松田優作の代表作「探偵物語」に登場したコミカルな刑事が印象深いかもしれない(1990年に逝去)。時代劇では、映画とドラマの「柳生一族の陰謀」で、主人公の柳生十兵衛に立ちふさがる公家の剣豪で際立つ存在感を見せた。大河で義元を演じたのは、この数年後のことであるが、出で立ちは公家ながら、したたかな武将という点でNHK側も、今川義元のイメージに合致してオファーしたのだろう。

春風亭昇太

大河ドラマ「おんな城主 直虎」公式サイトより

「昇太義元」は、「成田義元」に近い⁈

この3人の中でいえば、今回の「直虎」で春風亭昇太が演じる義元に、特に近いトーンになるのは、“成田型”ではないだろうか。

私が思うに、“成田型”は、“中村型”と“谷原型”の義元と決定的に違うことがある。それは時の作品の主人公の視点の「高低差」だ。

中村の出演作品の主人公は武田信玄であり、谷原の作品のそれは武田の軍師、山本勘助。つまり同盟国の武田家から見立てた今川義元なので、戦国大名らしい、冷徹な政治手腕ぶりも描きつつも、あくまでライバルとして対等な地位であり、ヒールとしての色彩がさほどではない。

一方、成田の出演作品の主人公は徳川家康(当時は松平竹千代)。言うまでもなく、史実では、幼くして父が暗殺され、領地は今川家に植民地支配されてしまった。支配された側からの「下からの目線」で描かれる分、植民地支配者としての冷徹さ、残忍さが濃く描かれる。生家の岡崎城が乗っ取られ、家臣たちの居場所がなくなっただけでなく、隣国尾張の織田との戦では、矢面に立たされる。あるいは、このドラマで描かれたように、聡明な竹千代を女性で骨抜きにして将来はバカ殿にしようと画策して、寵愛する美しい姪っ子(後の築山御前)との縁組を決める。。。といった具合になる。

「おんな城主  直虎」は、遠江の一勢力である井伊家が主人公。徳川と同じく今川に支配される側であり、これまでの予告の映像で登場した昇太義元の不気味な風貌からしても、かつてないほどヒールの色彩が強い今川義元になりそうな予感がする。予告編ですでに一端が描かれているが、史実では、直虎の許嫁、直親(三浦春馬)の父、直満(宇梶剛士)が義元によって謀殺される。ほかにも井伊家をピンチに追い込むラスボスとしての存在感を発揮しそうだ。

昇太師匠もイメチェンと役者としての幅の広さをアピールするため、強烈な印象を視聴者に残すかもしれない。桶狭間で義元が討ち取られた時点で、視聴者にガッツポーズされるくらいであれば、キャラ設定としては成功だろう。

そういえば、BSプレミアムの先行放送は18時から。ということは、その直前まで地上波の日テレ「笑点」では、昇太師匠は、結婚できないネタ等で突っ込まれるなど、本業の落語家として、いつもの明るい笑顔を見せているわけだ。この“白昇太”から“黒昇太”への早変わり、短時間での落差もまた、局の垣根を超えた楽しみになりそうだ。


著者セミナーbanner

クリックすると申込フォームに飛びます

アゴラ出版道場、第1期の講座が11月12日(土)に修了しました。出版社と面談が決まった一期生は企画をアレンジし、捲土重来を目指す受講者も日々ブラッシュアップ中です。二期目となる次回の出版道場は4月以降の予定です。

導入編となる初級講座は、毎月1度のペースで開催。12月6日の会は参加者のほぼ全員が懇親会に参加するなど、早くも気合がみなぎっていました。次回は1月31日の予定です(講座内容はこちら)。「来年こそ出版したい」という貴方の挑戦をお待ちしています(お申し込みは左のバナーをクリックください)。