サウジアラムコは「通常ならざる上場」の準備を進めている

NHKが「サウジアラムコ上場 誘致大作戦」と題して、昨年のクリスマス直前、日本取引所グループの清田CEOミッションがリヤドを訪問し「アポなしの突撃トップセールス」を行った、と報じたのは1月6日のことだった。

ちょうど1年前の2016年1月6日、英紙『The Economist』が同年1月4日に行ったムハンマド副皇太子とのインタビュー記事を掲載し、その場で初めてサウジアラムコのIPOが「検討中」と伝えられたのだった。

さてFTが “Saudi Aramco gets ready for ‘no ordinary IPO’” (Jan 6, 2016 around 1:00am Tokyo time) と題して、1年たったIPO作業の現況を報じている。なおサブタイトルは “Largest oil producers must resolve issues on shape, tax and listing location” となっている。

毎度のことながら、筆者の興味関心に従い、要点を次のとおり紹介しておこう。

・1年前に計画を発表し、世界のエネルギー産業に驚愕を与えたサウジアラムコのIPOは、石油依存のサウジ経済の全面改造を目指す「ビジョン」の中核をなすものだが、今日、多くの重要な課題が未解決のままだ。すなわち形態(shape)、税(tax)および上場場所(listing location)の問題だ。

・然し、サウジの高官たちとアドバイザーたちは、はっきりしていることは一つだけある、これは通常のIPOではない、ということだ、という。「規模、性格、不確実性、スケジュール、手続き、どれをとってもこれまでのIPOとは異なっている」「比べられるものはなにもない」と。

・関係筋は、売却される株数が増加するかも知れないし、時期がずれるかも知れないが、5%のIPOは来年行われるだろう、という。

・サウジアラムコはコメントを避けた。サウジ政府高官はつかまらなかった。

・サウジアラムコはサウジ国家と複雑にからみあっている。原油生産と石油精製が中核事業だが、病院経営、教育プログラムの実施、あるいはスポーツスタジアムの建設など、国家が行うべきことも数多く行っている。だがIPOで成功を収めるためには、会社を大手国際石油に似たものにする必要がある。別の関係筋は「上場するためには多くの清掃、整理整頓作業が必要だ。中核事業が何か、はっきりと分かるように示すべきで、戦略目的がないものは取り除く必要がある」という。

・サウジアラムコのスタッフは、何ヶ月もかけて、サウジ社会のための役割と中核の石油関連事業とを区分する作業を行っている。中核事業でないものは、合弁会社か他の方法で、管理する別の責任主体を作ろうとしている。

・IPO計画では、サウジ政府は支配的株主として残り、生産水準と原油埋蔵量の管理については決定権を保持することになっている。

・サウジアラムコの経営陣は、配当政策、すなわちIPOの価値評価に大きな影響をもたらす税金およびロイヤルティとしての政府への支払いについても問題を解決しようとしている。ある関係筋は、歴史的にサウジアラムコは85%の税金を払い、石油生産には20%のロイヤルティを支払っている、という。会社は、税率を50%にするケースも討議しているが、結論は出ていない。さらに政府の承認が必要な事項でもある。

・関係筋によると、上場するさい管理当局への申請書に使えるように、2017年の財務報告書を整えるべく、会計の全面改訂作業を行った。だが、この2017年決算書および過去2年間の暫定財務諸表を作成するためには、新しい税務基準を政府が作る必要がある。

・また、関係筋によると、2,600億バレルと推定されている保有埋蔵量に関し、昨年第三者による監査作業が行われた、という。サウジは、これまで財務諸表も埋蔵量データも公表したことはない。保有埋蔵量は1980年代以来、ほとんど変化していないため、専門家から疑問視されている。

・上場場所については、一義的に海外で、二義的にリヤドとなろう、という。海外についてはニューヨークが挙げられていたが、米国議会が、9.11事件の犠牲者の家族がサウジ政府を提訴できる、との立法を行ったため事態が複雑になっている。ロンドンも名誉ある場所であり、香港や東京を含むアジアの取引所も議論されている。

・サウジが選択するにあたり、上場条件、情報開示規則、ガバナンス規則等は重要な判断材料となろう。たとえばロンドン株式市場は、当局の特例措置がない限り、上場企業は25%以上の浮動株を持つことが要求される。

この記事はエネルギー担当のAnjli Ravalによるものだが、別の記者による続報がある、と書かれている。

一読して、記事の行間から、優秀なテクノクラートが揃ったサウジアラムコ側では、外部のアドバイザーたちの手も借りて作業が進捗しているが、他省庁、または王族メンバーの利害にからむ部分、あるいは「国体」とでもいうべき社会のあり方に関わる部分との調整に手間取っているのでは、と感じるのは筆者だけであろうか。

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編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年1月9日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。