独政治学者のヴェルナー・パッツェルト(Werner Patzelt)氏はキリスト教会に対して極右ポピュリズムへの対応で変化を求めている。同氏は「ポピュリズムは社会に広がっている無知と偏見から生まれてきたものではないことを理解しなければならない。国民の多くは自身の見解、関心事、懸念が政治的エリートに届いていないと感じているのだ。彼らは既成の政治システムに抗議している」と主張する。
それゆえに、「教会は失われた羊をケアするのが使命だ。極右ポピュリズム現象に対しても新しい対応を検討すべきだ」というのだ。同氏がケルンの大聖堂ラジオとのインタビューの中で答えた。同氏は17日、新著「AfD,Pegida,Co、宗教への攻撃」(原題「AfD, Pegida und Co.: Angriff auf die Religionen」)を出版したばかりだ。
米国家情報会議(NIC)は最近、長期情報予測を公表したが、その中でポピュリズムについて「エリート、主流派の政治、地位が確立された機関に対する疑念と敵意 」と定義している。
パッツェルト氏のポピュリズムの理解も同じだ。ポピュリズムは日本語では大衆迎合主義と訳されることが多い。あたかも間違った言動のように受け取られやすいが、同氏はそうではないと警告を発しているわけだ。
パッツェルト氏は「教会は極左、極右の区別なく、非人間的なことには強い姿勢で臨むべきだ。方向性を失った羊たちを再び保護することが教会の役割だが、これまで教会は正しく対応しきれなかった面がある」という。具体的には、教会は既成の政治システムと連携し、その一部(霊的なケア)の役割を果たすことで満足してきた。教会指導部と信者間の疎外現象が浮かび上がっているという。
ドイツでは今秋、連邦議会選挙が実施される。与党第1党「キリスト教民主同盟」(CDU)党首のメルケル首相は4選出馬を表明する一方、社会民主党(SPD)のガブリエル副首相は「首相候補者として戦う」と既に党内の結束を固めるなど、各政党は既に選挙モードだ。
既成政党が懸念していることは、外国人排斥などポピュリズム的な言動で台頭してきた新党「ドイツのための選択肢」(AfD)が昨年11月の米大統領選のトランプ旋風に鼓舞され、さらに激しい選挙戦を展開するのではないかということだ。
メルケル独首相は、AfDが国民をフェイスブックなどのSNS(ソーシャルネットサービス)を利用してフェイク・ニュースを発信する危険性を警戒、米フェイスブック社に対応を求めてきたほどだ(「フェイク・ニュース(偽情報)の脅威」2016年12月16日参考)。
フェイスブック社は15日、独政府の要請を受けて、フェイク・ニュースについて、利用者に警告を表示する仕組みを、数週間以内にドイツで導入すると発表している。
ちなみに、独連邦憲法裁判所は17日、極右政党「国家民主党」(NPD)の非合法化を拒否する決定を下している。同裁判所のアンドレアス・フォスクーレ(Andreas Voskule)長官は「NPDの政治信条は憲法違反的だが、同党はドイツの民主主義を破壊できる潜在的な力は有していない」とその決定の理由を説明している、ドイツでは現在、NPDの党員数は約6000人、NPDの地方議員数は338人(昨年11月現在)で、そのほぼ5人に4人は旧東独出身だ(「独極右政党を非合法化できるか」2013年1月3日参考)。
いずれにしても、9月の独連邦議会選は4月、5月の仏大統領選と共に、2017年の欧州のポピュリズムの行方を占う重要な政治イベントとなることは間違いない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年1月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。