MRJ、5度目の延期 三菱重工社長「骨身にしみた」 大型事業相次ぐ修正(日本経済新聞)
MRJ開発にはすでに数千億円規模をかけているもようだ。18年半ばに納入する予定だったが、設計変更などにより「(従来計画よりも)開発費は3~4割増える」(宮永社長)。単年度決算に与える影響は軽微とするが、MRJ事業がプラス貢献するのは従来の20年代後半から30年代前半にずれ込んだもようだ。
08年に事業化を決定した際よりコストが膨らんでいることについて宮永社長は「骨身にしみた。リスク分析をもう少し勉強すべきだった」と語った。さらに「似た例」として、納入が遅れて巨額の損失を計上した豪華客船をあげた。
一方、宮永社長は航空機事業について、長期的な姿勢を強調した。航空機開発は巨額で回収に時間がかかり、参入障壁が高い。米ボーイングも中型機「B787」の開発に苦戦し、納期は数年延期された。ただ、しっかり参入切符を手にできれば、数十年先には投資に見合う利益を得られる、とみる。
これが日本の航空産業の実力です。
まして、C-2やP-1の民間転用で売り出そうなんて夢のまた夢です。
癒着関係にある防衛省以外のお客様に、商品として航空機や防衛装備を売るのは至難の業です。
敢えて申せば、どんなクズを作っても防衛省は唯々諾々と買ってくれたわけです。現場はその分困りますが、知ったこっちゃない。無責任な国営企業みたいなものです。それが現状です。
第三者のお客様を相手にしたことがないから、メーカーも防衛省も、アレな首相を含めた政治家も日本の防衛航空宇宙産業の実力を知らないわけです。ですからUS-2が売れるとか安直に信じてしまうわけです。
まあ、もっとひどいのは程度の悪い軍オタです。国産品に対する偏愛と、テクノナショナリズムでメガネが曇っているので事実が見えない。
そして当局の公式見解を鵜呑みにして「ウリナラマンセー」的な国産礼賛をやるわけです。
何しろ出発が、事実を知りたいのではないわけです。
「国産航空機・兵器は優れているのだ」という「教義」が根底にある新興宗教みたいなもので、それを補強するためにあれこれネットでネタを見つけてはそれに貼り付けて補強するわけですから、事実が見えるわけがありません。ですから、この手のアレな人達には何を言っても無駄でしょう。
事実が知りたいわけじゃなくって、ウリナラマンセー、国産サイコーと叫びたいだけですから。
以下の客観的な事実をみれば、そうそう国産装備を礼賛していいものか、考えるでしょう。
●実戦を経験していない。
●市場でセールスの経験も、第三者のユーザーからのクレーム含めた経験もない。
●防衛省から庇護されており、外国の製品と競合することが極めて少ない。
●航空機は民間機を売った経験が殆ど無い。
●防衛省のR&D予算が少ない。特に基礎研究費用は殆ど無い。
●諸外国の何倍ものコストでも疑問を持たない。しかもコスト積み上げ方式だからコスト意識がない。
●調達数が初めに決定されてプロジェクトが始まらないので、事業計画が事実上存在しない。
●防衛省が諸外国の動向に極めで鈍感で内向きなので、海外メーカーが殿程度進んでいるのか知らない。
●同じ分野で小規模メーカーが乱立しているので、設計者が一生に行う設計がすくない。
●メーカーの規模が小さいのでR&D予算が極めて少ない。同様に下請け含めて設備投資が少ない。
●航空機メーカーは、精々海外の下請け程度しかやっていなので、実質国営企業で「ビジネス」を知らない。
●予算が少ないので試作や試射が極めて少ない。つまり信頼性が低い。
●防衛省が失敗作でも「成功」と大本営発表をするので、失敗したときの原因や教訓が調査されない。
●防衛省に要求仕様がまとも作れる能力がない。で、メーカーに丸投げ。つまり官側が何が必要か分かっていない。
●防衛省が軽装甲機動車などのように空想的な要求を出すので、メーカーも空想的な製品を開発する。
●メーカーに民間市場に打って出ようという気位も、意識もなく、防衛予算に寄生している。このためモラルが低い。
ざっと考えてこれぐらい問題点があるわけです。
まさに「日本の常識は世界の非常識」。なんですが、メガネが曇った人たちにはそれが見えない。だからF-2のような駄作機を手放しで礼賛するわけです。仮にF-2の性能がよかったとしても、整備・維持費が双発で更に古いF-15Jよりもかなりお高い。コストも性能の一つですが、程度の低い軍オタさんたちは、予算や銭勘定という概念がありません。
お金がリアルな問題で抽象概念なのでしょう。それが専門家気取りで、兵器や装備の優劣を語って悦に入っているですから端から見れば喜劇です。
別にどの兵器が好きだとか、そういう与太話はオフ会とかですなら良いわけですよ。
居酒屋で馬鹿話でもりあがるのはいいでしょう。趣味の世界の話ですから。
ですが、そのノリで国防や防衛航空宇宙産業について語るのは無理というものでしょう。残念な人たちはその区別がつきません。これが中学生ぐらいならばまだしょうがないでしょうが、良いオトナがやっているのですから、暗澹たる気持ちになります。
さて、MRJですが、政府はこれを最後までサポートするべきです。
航空機産業で利益を出すのは時間がかかります。
それに自動車産業も先行きがそろそろ怪しくなってきました。航空産業であれば我が国の工業のポテンシャルを行かせるでしょうし、弱電などと違って途上国の追い上げが難しい分野です。そして裾野も広い。
航空機、しかも旅客機ビジネスが軌道にのるのは時間がかかります。エアバスだって30年かかりました。
我が国もYS-11で諦めずに、その後ボーイングが傾いたときに737の権利を売りに来たときに買って、また民間機市場で勝つために防衛航空産業を再編していれば、現在の風景はかなり変わったものになっていたでしょう。
防衛装備ももっとまともになっていたでしょう。
防衛装備調達をまともにするためにも、航空産業で頑張る必要があります。
ですから、政府は短気を起こさずに、長期戦でMRJを育てて行くべきです。
当初MHIはパリ航空ショーで大使公邸のレセプションに、外国人もプレスも呼ばずに、国内関係者ばかりを集めて飲み食いしていましたが、その後意識が随分変わりました。
政府がある程度MRJを調達するも手です。政府専用機で数機、自衛隊の電子戦機や、早期警戒機などとして採用することも検討すべきです。バカ高いカネを払って役に絶つかどうかも怪しいアメリカ製の兵器を買うよりははるかに国益に沿うでしょう。
更に申せば、まともな防衛航空宇宙産業に関する戦略を持つべきです。我が優秀なUS-2や潜水艦は世界で売れるに違いないとかいう、妄想ではなく、我が国の得手不得手、できることできないことを把握した上で、省庁横断的な組織を作って、現実的な長期戦略の絵を描くべきです。
それなくしては、単なる予算の逐次投入に終わるだけで、税金の無駄使いになるでしょう。
C-2やP-1の民間転用の調査などがそのいい例です。
当然ながら、既存の防衛航空宇宙産の再編、例えば将来性のないヘリからは撤退してそのリソースを無人機に投入するとかも考えるべきです。防衛省が買わなければヘリ産業は淘汰されます。
併せて防衛省は既存の防衛産業ではなく、技術の高い中小企業を取り込み、育てることによって、技術基盤を強化すべきです。
現在のように既存の企業に丸投げでクズを作っているようでは世界に勝てません。
日立に作らせたUGVがどうなりましたか?
つまり現状を疑うことから始めるべきです。現状完全肯定、問題なしという夜郎自大的姿勢が続くのであれば、我が国の防衛航空宇宙産は更に衰退への道を歩むでしょう。
朝日新聞のWEBRONZAに以下の記事を寄稿しました。
南スーダンで負傷した自衛隊員は救えるのか
戦死者、戦傷者を想定していない「軍隊」の危うさ
http://webronza.asahi.com/politics/articles/2017011700001.html
Japan In Depth に以下の記事を寄稿しました。
自衛隊、オスプレイの空中給油能力を活用? その1
http://japan-indepth.jp/?p=32558
自衛隊、オスプレイの空中給油能力を活用? その2
http://japan-indepth.jp/?p=32583
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2017年1月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。