1月25日の10時10分、日銀は国債買入をオファーした。内容は残存期間10年超25年以下を1900億円、残存期間25年超を1100億円、物価連動債を250億円となった。債券市場参加者はこれを確認して驚き、債券を売り急いだ。
債券先物は150円を割り込み、149円85銭まで下落した。10年債利回りは0.080%と昨年12月19日以来の水準に上昇し、5年債利回りもマイナス0.095%、2年債利回りもマイナス0.195%をつけ、20年債利回りは0.655%、30年債利回りは0.830%、40年債利回りは0.995%に上昇したのである。10年債利回りは前日24日の引けが0.040%であったので一気に倍になった格好である。
いったい何が起きたのか。これは毎日、日銀のオペに対応している参加者でないと即座には反応できないものであったかと思う。私はこの時間帯は昼のコラムを書いている。値動きも途中で確認はしているので、25日のこの動きにびっくりしたが、どうしてなのかはすぐには理解できなかった。
少し時間が掛かってしまったが、次第にその理由がはっきりしはじめた。そのひとつが10年超25年以下の1900億円、残存期間25年超の1100億円という金額にあった。ここにきて超長期債の利回りが上昇してきており、12月に日銀が国債買入増額に踏み切った前の水準に上昇していたことで、一部に増額の期待があったようなのである。急激な利回り上昇ではなかったことで、増額はないと自分では思い込んでいたが、その増額期待が裏切られた格好となったようである。
しかし、主因はこれとは違うところにあった。25日の日銀の国債買入の市場参加者の予想は、そもそも残存10年超25年以下と残存期間25年超に加えて「1年超3年以下」、「3年超5年以下」も含まれていたのである。もちろん市場の事前予想通りに日銀が買入を行うわけではなく、多少ずれることはままある。しかし、ここにカレンダーの問題があった。
1年超3年以下と3年超5年以下は一応セットとなっており、1月はすでに4回の買入が実施されていた。12月には6回実施されており、1月も当然6回あると市場参加者は読んでいた。26日以降のカレンダーをみると27日に1年超3年以下、3年超5年以下を含めた買入が予想されているが、もう25日の買入でスキップされたことで、残り一日が見つからない状態となってしまったのである。
これが月初めや月半ばであれば、調整が利くかもしれないが、1月も押し迫っている上に26日には流動性供給入札、30日には2年国債入札、30~31日は日銀の金融政策決定会合が予定されていたことで、市場参加者が、えっとなったのである。通常、利付国債の入札日や決定会合当日には日銀は国債買入をオファーしない。ただし、流動性供給入札日や決定会合初日にはオファーの例はあった。このため26日の可能性はあったが流動性供給入札が予定されているだけでなく、中期ゾーンの買入を2日続けて行ったケースは過去ない。現実に26日に日銀は国債買入を見送った。
27日に中期ゾーンを含めて、予定通り実施されるとして、30日には2年国債入札、31日は決定会合の結果が出る日で中期ゾーンの買入オファーの可能性は極めて薄い。つまり、日銀は1月の1年超3年以下、3年超5年以下の買入を1回スキップするのではとの観測が強まったことで、25日の10時10分過ぎに債券が大きく売られたのである。
1年超3年以下は一回当たり4000億円、3年超5年以下は同4200億円程度の買入を行っているので、1回分と言えども合計8200億円の買入額が12月と比べて減額となってしまう。年間にすれば8200億円の12か月分、つまり10兆円規模となる。これはテーパリングなのではないかとの観測が出てもいたしかたない。
日銀はこれまで国債利回りの上昇に対して、指し値オペや小幅の増額などで調整を行っていたが、今回は何もしないことによって大きな金額の調整を行おうとしているのか。
何故日銀は中期債の買入を1回スキップするのか(本当にするのかは31日までわからない)。その前兆といえるものは確かにあった。日銀は12月30日に公表された当面の長期国債等の買入れの運営についての1月分から、それまでの中期ゾーンの買入を「6回程度」から「5~7回程度」に修正していた。これは5回もありうるということを事前に示していたのかもしれない。
今回のスキップの理由としては2年債利回りの低下なども指摘されているが、それほど急激に低下していたわけではない。ただしその裏側には中期ゾーンへの海外投資家などからの強い需要もあったことになり、市場に流通する中期債がタイトとなっていた。日銀の巨額の買入が続き、いずれ今後のオペでの札割れリスクもあって、少しペースを落とそうとしたのかもしれない。
日銀は昨年9月に長短金利操作付き量的・質的緩和の決定において、操作対象をマネタリーベースという「量」から、長期と短期の「金利」に戻している。しかし、いわゆるリフレ派と呼ばれる委員の賛同を得る必要もあってか、マネタリーベースの拡大方針を継続する「オーバーシュート型コミットメント」とともに、国債買入についての量を保有残高の増加額年間約80兆円をめどとするとして80兆円という数字を残している。ただし、あくまで「めど」であり、いまのペースでも80兆円は大きく割り込み70兆円台になると予想されている。ここでもし今後中期の回数を月5回とすると60兆円台となってしまう。
来年度の国債発行額は中期ゾーンを含めて減額されることもあり、国債の利回りも超長期債主体に上昇しつつある。日銀にとっては巨額の国債買入を継続するのは次第に困難になることが予想される。そのため事前に手を打ったとの見方もできる。そうであれば、もしかすると31日の日銀の金融政策決定会合では、「買入れ額については、概ね現状程度の買入れペース(保有残高の増加額年間約80兆円)をめどとしつつ」との部分が削除もしくは修正される可能性がありうるということなのであろうか(問題はリフレ派委員を説得できるかとなるのだが)。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年1月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。