子どもやひとり親の貧困に取り組むNPO法人フローレンスの駒崎です。
年初、「2017年にはぶっ壊したい、こどもの貧困を生みだす日本の5つの仕組みとは」と題した記事を書いたらヤフトピに取り上げて頂き、多くの方に読んで頂きました。
また、貧困支援のプロ、大西連 さんも「2017年は生活保護家庭の子どもが大学進学できる社会にしよう!」というテーマで記事を書かれ、この問題を世に広めてくださいました。
この間、「生活保護家庭の子どもは、大学に行ってはダメ、というのは知らなかった」という意見が、僕に多数寄せられました。
生活保護家庭の子どもは、大学に行ってはダメで、大学に行くには「世帯分離」と言って、もとの生活保護家庭とは別の世帯となることで初めてそれが可能になります。しかしその場合、世帯構成員が一人減るので、保護費は6万円くらい減る。
この減った分をバイトして必死に稼ぎ、さらに授業料等も稼いでいくのですが、それで疲弊していき、勉強する時間もなくなっていくわけです。
民進党細野議員が総理に質問
その状況について、さる1月26日の衆議院予算員会において、民進党の細野豪志議員が、安倍総理に切り込んでいきました。
細野議員は、安倍総理が施政方針演説で述べた言葉「どんなに貧しい家庭で育っても、夢をかなえることができる。そのためには、誰もが希望すれば、高校にも、専修学校にも、大学にも進学できる環境を整えなければなりません」を引用し、それに対し
「こういうことは、歴代総理はいってこなかった。素晴らしい」と一定の評価をします。
その上で、続けます。
「誰もが大学にも進学できる、専修学校にも進学できる環境には、残念ながらなっていないと私は考えています。これをご覧ください。全世帯で733%の子どもが大学等に進学しているんですね。しかし、生活保護家庭に限定するなら33%、そして児童養護施設や家庭養護の子どもにいうならば、23.2%に過ぎない。総理が自ら施政方針演説で言われた目標を満たしているとお考えですか?」
安倍総理はそれに対し
「まさに、まだ残念ながらそういう状況になってないからこそ、私はそういう社会をつくっていきたい、このように申し上げたわけでございます。」
と意欲を示しました。
その後、細野議員は、現場で頑張る若者の例を語ったあと、こう切り出しました。
「総理、ご存知ですか?生活保護の家庭というのは、現状においては大学や専門学校に入ることは認められていないんですよ。(中略)この現状は、総理、どうですか。どんな貧しい家庭に生まれようが、誰でも大学や専門学校に就職できるという環境になっていますか?」
ここで直接の担当大臣の塩崎厚労大臣が防波堤のように答弁を代わります。
「制度の話なので、私が。(中略)意欲と能力のある子どもさんには、運用上世帯分離を形式上すれば、大学に進学できる、という風になっているのでございます。
生活保護費で何をカバーするのか、というのが大事な議論の分かれ目でございまして、給付型奨学金などの様々な施策を組み合わせていきたいと思っていまして・・・(後略)」
細野議員はそれに対して反論します。
「総理、聞かれましたか?高校まではいけるんです。でも、大学はダメなんです。こういう言葉がある。「稼働に資する」と。すなわち、稼げる人は稼がせる、といのが生活保護の考え方なんですよ。だから、受験料すら出さないんですよ。
(中略)世帯分離をすると親は一人分の生活保護費をもらえなくなりますから、6万円ぐらい減るんですね。親が食べられなくなるかもしれないといって諦めるている子どもは多いんです。総理、あそこまで仰ったのなら、変えませんか?」
子どもの進学が、生活保護脱却の鍵
さらに細野議員は、「進学すると生活保護から自立できる」エビデンスを提示します。
横須賀市のデータで、子どもが中卒の場合は、その世帯が自立できたのは41%に過ぎないのに対し、定時制高校に子どもが進学した場合は57%、全日制高校に入学した場合は77%もの世帯が自立できたのです。
よく考えたら、すごいことです。子どもがより高いレベルに進学すると、子どもだけでなく、その世帯全体が生活保護から脱却するのです。これは生活保護の問題を語る上で、非常に重要なデータです。
(ちなみにこうした調査をちゃんとやっている横須賀市および横須賀市長の 吉田雄人 市長は非常にグッジョブです)
出典:生活困窮者自立支援のあり方等に関する論点整理のための検討会(第六回)
細野議員は言います。
「確かにその間は6万円だけ余分に生活保護費はかかるかもしれないけれど、長い目で見たときは、必ず彼らが自立をしてくれる。そしてやがては納税者になってくれる。ここを惜しんでるんですよ、総理!」
総理の反応
それに対し、総理は以下のように答弁しました。
「生活保護を受けている家庭の子どもが大学に行っちゃいけないとか、そういうことは全くないわけでありますから。なんとなく、ちょっと誤解を受けられる方がおられるのではないかと思いますので・・・。
(略)
行ってはいけないということではなく、本人分が生活保護の中から引かれる、ということになるわけでございます。
(略)
同時に細野議員が言われた問題意識については、それは私も共有しているところでございます。
(略)
18歳から実際に仕事に行くお子さんも、希望して大学に行きたいけれども行けなかった方もおられると思いますが、そういう中において、その公平性についてはどうかという議論も存在するのは事実でございます。
それと同時に財源をしっかりと確保していくのも大切でございまして、大きな課題でもあります。しかし一歩一歩前進して参りたいと思います。」
ネックは公平性と財源
安倍総理の姿勢は、厚労省の従来の姿勢を反映したものになっています。すなわち、こういうことです。
生活保護を受けずに頑張っている低所得の家庭の子どもの中にも、大学に行けない子もいるだろう。そういう子どもたちへの経済支援はあることはあるが、十分とは言えない。
一方で、生活保護世帯の子どもが大学に行く場合に、保護費から授業料を出せたら、それは国が経済支援していることになる。片方には支援がなく、片方に支援があるという状況は不公平ではないか。
そしてお決まりの財源の問題です。今までは世帯分離させて国が払う生活保護費を、子ども個人に転嫁させていましたが、国が払うとなると、おそらく数十億から100億円を超えるコストがかかるでしょう。それをどうするのか、というところです。
解決策はある
これは確かに難しい問題だと思いますが、公平性に関しては、「より厳しい環境にある子どもに、より手厚いサポートを」という姿勢で良いのではないかと思います。生活保護水準の家庭は厳しい生活水準ですし、貧困の連鎖の鎖がより強固なものですので、そこからの脱却のためにはより支援が多くても良いのではないか、と。
「生活保護をもらわずに何とかやっている家庭の子ども」と比較しての公平性ですが、そうした厳しい環境でも頑張っている世帯には、給付型奨学金や収入連動型奨学金を充実させ、よりサポートをしていくべきです。「彼らも辛いんだから、我慢して」という論理は、公平かもしれませんが未来はありません。
さらに財源ですが、子どもへの投資はまさに将来返ってくる「投資」ですので、手元になければ、子どものことにしか使わない「こども国債」を発行して財源に充ててはどうでしょうか。地方へのバラマキの別名「地方創生」とかはまっぴらごめんですが、子どもたちのためなら、国債が増えるのはアリです。個人的には真っ先に購入します。
さいごに
今回の国会質問は、コンパクトながら、この問題について総理をはじめ国会議員の方々に認知してもらえた、非常に重要な機会ではなかったかと思います。また、問題の構造もよく理解でき、国会の論戦というのは、こういうものであるべきだ、と強く感じました。
さあ、皆さんはどう思われますか?
生活保護の家庭の子どもが大学に行くのは、「贅沢な話」でしょうか?あるいは「生活保護をもらっていない他の家庭もいるんだから、我慢すべき」なんでしょうか?
ぜひ、少しでも考えてみてください。我々が望むことは、きっと国会にも届くのですから。
*発言は衆議院予算委員会速記録(議事速報)から引用しました。
編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2017年1月28日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。