いよいよ、アメリカに新大統領が誕生した。そのトランプ大統領については、今まで何度か述べてきた。とくに彼の、「メキシコとの国境に壁を作れ。費用はメキシコ持ちだ」「イスラム教徒は入国禁止にする」などの発言や、女性蔑視発言の数々についてだ。どう見ても、大国アメリカのリーダーにふさわしいと思えない人物だ。事実、多くのマスコミや政治家はそう考える。
余談だが、僕の周りでトランプ氏が大統領になると予想していた人がいる。評論家の長谷川慶太郎さんだ。長谷川さんは彼の勝利を予想していた。
トランプ氏の大統領就任が決まって、外国首脳として、いち早く会談を実現したのは、安倍晋三首相だった。実は、大統領が決まったとき、安倍首相は外務省から誰かをアメリカに派遣しようとした。ところが、外務省は、「受け入れ態勢が間に合わない」という、意味不明の理由で渋っていたのだ。そこで、官邸サイドが独自のルートでアプローチし、まずは電話会談となった。この電話会談で、11月17日の電撃会談が決まったのだ。
トランプ勝利によって、マスコミには、「TPP問題」「日米安保」問題について、悲観論が流れていた。トランプ大統領は、「TPPは破棄する」「世界の警察をやめる」と公言しているからだ。しかし安倍首相は、正面からトランプ大統領に向き合い、会談にこぎつけた。
実は、この会談実現には伏線がある。陸軍出身で、トランプ氏側近として知られるマイケル・フリン氏が、会談の少し前に来日し、安倍首相の側近と会っていたのだ。フリン氏は、大統領選でいち早くトランプ支持を打ち出し、イスラムに対する恐怖心と嫌悪を駆り立てた人物だ。トランプ政権の国家安全保障担当の大統領補佐官である。
日本側はその場で、日本政府が在日駐留米軍に対して払っている、いわゆる「思いやり予算」についてフリン氏に説明した。さらに、TPPについて、「アメリカにとっても有益な協定だ」などとも話したという。フリン氏は、日本側の話に理解を示したという。ただTPPについては、「多国間ではなく二国間でやりたい」とトランプ氏が言っていることなどを説明したそうだ。まさに膝を交えて話ができていたわけだ。
第二次世界大戦が終わった後、アメリカが世界を主導してきた体制を、「パックス・アメリカーナ」と呼ぶ。「アメリカによる覇権」という意味だ。だから戦後、長くアメリカは「世界の警察官」をつとめてきたのだ。
2013年、オバマ前大統領は、「アメリカはもはや世界の警察官ではない」と言った。つまり、アメリカは新たな「軍事介入」は行わないという意味だ。しかしトランプ大統領は、「オバマは世界の警察を辞めると言いながら、実際には辞めていない」と指摘する。
なるほど、アメリカはシリアの反体制側を支援し続けている。そもそも日本や韓国、フィリピンなどに米軍を駐留させ続けてもいた。トランプ大統領の誕生によって、アメリカは、いよいよ「世界の警察」をやめるのかもしれない。「パックス・アメリカーナ」が、ついに終焉を迎えるかもしれないのだ。
アメリカの、この「後退」は、日本の「戦後」が幕を閉じることも意味する。安倍首相は第一次政権の頃、「戦後レジームからの脱却」を強く主張していた。現在はあまり口にしなくなったが、その思いが変わっていないことは明らかだ。
トランプ氏が多くの予想を覆し、新大統領になった今、皮肉にも安倍首相の念願だった「戦後レジームからの脱却」が、実現する可能性が出てきた。では、「戦後」が終わったあと、日本はどうなるべきなのか。新たな「レジーム」は、いったい何なのか。安倍首相に、そして日本国民に、今、突きつけられている問いなのだ。
編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2017年1月30日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。