イギリス人は、なかなか首尾一貫してますね。
メイ英首相がワシントンD.C.を訪れ、27日にトランプ米大統領と会談しました。トランプ氏の保守系地元紙ニューヨーク・ポストをはじめ、米各紙は「特別な関係の復活」とお祝いモード。レーガン=サッチャー、クリントン=ブレア時代を彷彿とさせる時代の開幕と、手放しで評価しています。
何はともあれ英国としては二国間での貿易関係の強化を勝ち取り、トランプ米大統領から北大西洋条約機構(NATO)重視の言葉を引き出し、上々の仕上がりだったのではないでしょうか。トランプ米大統領が水攻めなど拷問支持のコメント(もっとも、マティス米国防長官が不支持でこれに従うとも言及)を寄せる場面でも距離を置き、バランス感覚の鋭さを遺憾なく発揮したものです。
メイ英首相は、トランプ氏を国賓待遇で新大統領を英国に招くとも発表しました。この発言に、快く思わない方々が存在します。他ならぬイギリス人で、トランプ米大統領の英国入国禁止を求める嘆願書には100万人どころか120万人を超える署名が集まりました。米大統領候補だったトランプ氏に入国禁止を迫った署名運動の約2倍に及びます。
英政府の掲げられた嘆願書、ロンドンなど都市部で署名多数。
イスラム教7ヵ国の90日間入国禁止や、シリア難民受け入れ禁止などを盛り込んだテロ対策強化案に関わる米大統領令が反トランプの炎に油を注いだことでしょう。メイ政権はトランプ米大統領の訪英が「大いなる国益」と判断し、招待を撤回しない構えをみせています。仮にトランプ米大統領が4月に訪英し混乱が生じれば、メイ英首相とあってApril Showers May Flowers——苦労があってこそ花開くといった展開が迎えられるかも?
引き続き難民受け入れ一時停止が大いに物議を醸していますが、米国ではある会社がこんな救済策を打ち出しました。「世界75ヵ国で、向こう5年間に10,000人の難民を採用する」——大胆な提案でニュースのヘッドラインを飾ったのは、シアトル・コーヒーの代名詞スターバックスのハワード・シュルツ最高経営責任者(CEO)。4月に退任予定ながら、人道支援のお手本を示した格好です。シアトルが位置するワシントン州と言えば同性婚や大麻の娯楽使用をいち早く合法化するなどリベラルを地で行く州で、かつIT企業や多国籍企業を抱える周辺のカリフォルニア州やオレゴン州と同じく移民も多い。スターバックスのロゴこそ美声で漁師を誘惑し遭難させた人魚のごときセイレンですが、その会社を代表するCEOは地域性を受け継ぎリベラル精神に溢れていました。
問題は、トランプ政権が米大統領令を駆使した移民規制強化の手綱をさらに引き締めることです。既にブルームバーグは、IT企業がこれまでのように外国人を容易に雇用できないよう、ビザ支給の枠組み変更で検討に入ったと伝えています。H1Bビザ(特殊技能職)を始め、L1(駐在員)、E2(投資駐在員)、B1(商用または観光)など取得の条件を厳格化する可能性が濃厚。”米国第一”は”アメリカ人優遇”の代名詞に移るなか、IT企業にとっては競争力低下へつながる呪文へ変化しつつあります。
(カバー写真:Chris Beckett/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年1月30日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。