今年の世界経済フォーラム(ダボス会議)は、米国大統領の交代と重なったため、習近平中国国家主席が「開放型の世界経済を」と訴えたという報道が短く流れただけだった。その陰で、「Jobs and the Fourth Industrial Revolution(第四次産業革命と労働)」というセッションで、わが国に深く関係する重要な問題が議論された。
30分間のセッションでは、第四次産業革命に対応した教育改革の重要性、特に、高等教育に加えて生涯教育の必要性などが議論された。背景情報として提供されたのが第四次産業革命に対応できるスキルを持った労働者の不足状況に関する調査結果である。世界経済フォーラムに2016年7月に掲載された記事では「OECDの調査結果」と書かれていたが、調べたところ、OECDはManpowerGroupの調査を引用しただけだった。同グループは上述の記事よりも新しい結果(2016/2017)も発表している。
43か国に及ぶ最新の調査結果では、世界平均では雇用者の40%が労働者のスキル不足を認識しているが、わが国ではその値が86%と断トツであった。台湾73%、ルーマニア72%がわが国に続く。「日本には熟練労働者がいない」とは中国が開放型経済を叫ぶよりも冗談っぽいが、それは労働者に求められるスキルが変化してきたからである。世界経済フォーラムの整理では、2020年の労働者に求められるスキルは「複雑な問題の解決力」「批判的な思考」「創造性」「人材管理」「他との協調性」「心の知能指数」「意思決定能力」「サービス志向」「ネゴシエーション」「認知的柔軟性」。わが国労働者の今のスキルとは大違いだから、86%が不足を感じているという調査結果になった。
悲劇的なのは、わが国では不足と感じる割合が増え続けていること。2010年には76%だったので、6年間で10%も増加したことになる。第四次産業革命は世界的な構造変化であり、対応できなければわが国の国力は著しく低下する。情報活用能力など新しいスキルについて、急いで、労働者に対する生涯教育の機会を充実させていかなければならない。同時に、学校教育も21世紀型への転換が求められる。