アクセシビリティの義務化に向かう欧州

2006年に国連総会で採択された「障害者権利条約」を、欧州連合は2010年に集団批准した。その年、欧州連合は2020年までを行動期間とする「欧州障害者戦略」を策定し、2017年2月2日に欧州委員会は「欧州障害者戦略の進捗点検報告書」を公表した。

報告書は、アクセシビリティ・社会参加・平等・雇用・教育と訓練・社会保護・健康・域外への活動、の8分野で進捗状況を点検している。今日の記事では、アクセシビリティに注目する。

アクセシビリティは障害者の社会参加の前提条件であり、欧州障害者戦略の中心的な要素である。アクセシビリティは、建築環境、輸送、情報通信などの多くの分野で、障害者が直面している障壁の予防、障壁の特定と除去によって達成される。

公共機関が提供するウェブサイトとモバイルアプリに関するアクセシビリティ指令は2016に採択され発効している。鉄道・海上・地上交通に関する規制も改正された。たとえば、鉄道規制の改正は2014年で、駅に点字ブロックを設置したり、出入り口ドアの開口幅を拡大したりといった内容である。公共調達ではアクセシビリティ確保が入札評価の際に加点要素となった。情報アクセシビリティに関する欧州標準も作成された。

特記すべきは、「欧州アクセシビリティ法(European Accessibility Act)」の制定に向けて準備が進んでいることである。欧州委員会で雇用・社会問題総局を束ねるMarianne Thyssen委員は法案成立のために積極的に動いている

欧州アクセシビリティ法が制定されれば、欧州域内でのアクセシビリティ規制が統一され対応コストの削減・越境取引の容易化などの利益が企業にもたらされる。一方、障害者・高齢者にとっては、アクセシビリティを確保した製品サービスが大量に安価に流通するようになり、教育や労働市場がより開放的になるのが利益である。欧州アクセシビリティ法はコンピュータ、ATM、スマートフォン、デジタルテレビ機器、電話通信、銀行業務、電子書籍、電子商取引などを広範にカバーすることになる。

先の記事「銀行は障害者にどこまで対応しているか」で、欧州の金融業がアクセシビリティ対応を進めていると紹介したが、これは欧州アクセシビリティ法の成立を先取りする動きに他ならない。