ハンガリーのオルバン首相は北アフリカ・中東からの難民受け入れ問題では欧州連合(EU)の指導者の中でも最も厳格な政策を実施してきたことで有名だ。「西側の難民問題はドイツの問題だ」と強調し、メルケル独首相の難民ウエルカム政策を最初から厳しく批判してきた政治家だ。難民が殺到するドイツの入り口に位置するバイエルン州のゼーホーファー州知事は昨年10月、「ハンガリー動乱」60周年にオルバン首相を州議会に招くなど意気投合しているほどだ。
そのオルバン首相は10日、ブタペストの国民議会の慣例の演説の中で、「わが国は難民申請者を迎え入れる用意がある。ただし、西側の国民であり、リベラリズム、ポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)の犠牲者であり、母国で神なき社会を強いられている人々だ。彼らはわが国に亡命できる」というのだ。
オルバン首相が歓迎する難民の定義は政治的、宗教的、民族的に母国で迫害されてきた人々という国連のジュネーブの難民定義とは重なる部分もあるが、かなり異なっている。
先ず、西側の国民という点だ。決して北アフリカ・中東諸国のイスラム系国民を対象としていない。そして皮肉たっぷりに“西側のリベラリズムやポリコレの犠牲者”であることを条件に挙げている。右派政治家のオルバン首相は欧米社会のリベラリズムにこそ今日の諸問題の主因があるとみている。その上で、「神なき社会」に生きている敬虔なキリスト信者たちにハンガリーへの亡命の道を開くというのだ。
オルバン首相は上記の条件を満たした難民を「真の難民」と呼んでいる。「母国で恐れを感じるドイツ、オランダ、フランス、イタリアの政治家、ジャーナリストたち、母国を追われるキリスト信者たちはわが国に故郷を見出すことができる」という。その一方、「リベラルなメディア、国際人権組織を批判する。彼らは世界を緊迫させ、数十万人の難民を欧州に引き渡す。それによって欧州の伝統的な民族国家を破壊している」というのだ。
オルバン首相は9日、難民申請者を国境沿いの収容施設に拘留する強化策を発表したばかりだ。難民申請者の移動の自由を制限し、新たな難民の流入を防ぐ狙いがあるわけだ。国際人権擁護グループから批判の声が早速挙がっている。
ちなみに、オルバン首相は「欧州の自由を守る」と主張する。それは具体的に何を意味するのか。欧州が築いてきた文化的、経済的な生活環境を、招いてもいない難民・移民に奪われないために守ることを意味するのだろうか。多分、オルバン首相の真意は欧州のキリスト教文化、社会をイスラム教徒の北上から守りたいというのが本音ではないか。とすれば、オルバン首相はイスラム北上に立ち向かう孤高なキリスト教騎士ということになるわけだ。
いずれにしても、オルバン首相は欧州ではトランプ新米大統領の政治信条に最も近い指導者と受け取られている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年2月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。