【映画評】抗い 記録作家 林えいだい

福岡県筑豊を拠点に、朝鮮人強制労働の実態、公害問題、戦争の悲劇など、さまざまな取材活動を行ってきた記録作家・林えいだい氏。林氏は、幼い頃、神主だった父親が朝鮮人炭鉱労働者をかくまったことで、特高警察から拷問を受けて亡くなった経験から、抑圧された民衆の姿を記録の残そうと決意する。映画は、80歳を超えてガンと闘いながらも、膨大な資料を集め、粘り強く関係者に取材、執筆活動を続ける林氏の姿を映し出す…。

記録作家の林えいだい氏の活動を記録したドキュメンタリー「抗い 記録作家 林えいだい」。福岡県の筑豊地方の旧産炭地には、今もアリラン峠と呼ばれる場所があり、そこは、かつて強制労働に従事した朝鮮人たちが炭鉱に向かう時に歩いた道で、その周辺にある多くの石が、名前さえ刻まれない朝鮮人労働者の墓だということを、本作で初めて知った。林えいだい氏の活動の根底には、弱者を命がけで助けた父親の人生が投影されているのだろう。林氏は、太平洋戦争時に特攻隊員だった一人の兵士が、ただ朝鮮人だったというだけで無実の罪をきせられ無念の死を遂げた事件を、自身の取材活動の集大成と位置付けて、こつこつと取材を続ける。その粘り強い姿勢は、遠い過去を忘れようと記憶を封印してきた人々の口を開かせて、やがて真実へとたどりついていくのだ。

個人で作った“ありらん文庫”には、膨大な古い資料が保存されているが、それらは名もない人々が歴史の闇に葬り去られるのを懸命に防ぐ盾のように見える。1933年生まれの林えいだい氏は、すでに80歳を過ぎ、重いガンと闘ってる。それでも、思うように動かなくなった指にセロハンテープでペンを巻きつけて執筆するその姿は、虐げられ記録から抹殺された民衆を決して忘れるなと訴えているかのようだった。舞踏家の田中泯が淡々と語る朗読がずっしりと心に響く。
【60点】
(原題「抗い 記録作家 林えいだい」)
(日本/西嶋真司監督/林えいだい、他)
(資料的価値度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年2月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。